自動車産業インフォメーション

高齢ドライバー事故、認知機能の低下だけでは片付けられない理由(わけ)

2019年8月14日

高齢ドライバーが加害者となる交通死亡事故の抑止対策が急がれている。多くの関係機関がその対策に当たるなか、交通事故総合分析センター(ITARDA=イタルダ)は、独自に構築した違反事故履歴統合データベース(統合DB)と高齢者講習時の認知機能検査の結果データを利用した高齢者の交通事故分析を行っている。

分析では、認知症を疑われる人が健常な人に比べて事故発生が高まるかどうかを調べた結果、認知症の疑いがある人の事故発生率は高くなく、むしろリスク回避的に働いていることが分かっている。一方、認知機能検査を受けた時に、自分の認知機能の低下に気づいていない人の事故率が高いことなど、認知度の低下だけでは片付けられない長期的視点による対策の重要性を指摘している。

今年4月の東京・池袋での母子死亡事故をきっかけに、高齢ドライバーによる交通事故がクローズアップされている。加齢による認知機能の低下(正常加齢)や認知症(病的加齢)は、高齢者の交通事故リスクの要因として指摘されているが、認知機能が低下した高齢者が起こす事故リスクが健常高齢者に比べて本当に高いかどうかの根拠は十分ではないのが現状だ。

イタルダは、個別の交通事故の調査(ミクロ調査)として、ドライバーの基本属性と長期の違反・事故歴データを統合した統合DBと、警察庁から提供される高齢者講習の認知機能検査のデータを駆使した、さまざまな事故や違反の関係分析を行っている。認知機能検査の結果を分析データに使えることで、認知機能が低下した人が今後の3年間、運転を続けた場合、どのような事故を起こす可能性があるかといった追跡型の研究ができるようになった。

6月下旬に開かれた第55回「日本交通科学学会総会・学術講演会」でその分析の一部が公表された。「人の視点からの高齢者の交通事故分析」のテーマでイタルダの小菅英恵氏が報告した。小菅氏は75歳以上の運転免許保有者からランダムに選考した9万人を対象に、高齢者講習の認知機能検査の受験日から3年間に、人身事故の第一当事者になった人のリスク因子を分析。

その結果、第一分類(認知症の恐れ)、第二分類(認知機能の低下の恐れ)、第三分類(認知機能の低下の恐れなし)群のそれぞれにおいて、一定期間に第一当事者となる率(事故率)に大きな差は見られなかった。

認知機能の分類では事故率に差がなかった半面、事故を引き起こす危険因子の一つである「時間の見当識」では事故率に差が表れた。具体的には、時間の見当識の得点がやや低いグループは、高いグループに比べて追突事故のリスクが1・53倍高かった。

つまり、時間の見当識の得点が最も悪いグループがいいグループに比べて事故率が高まるのではなく、ちょっと悪い人たちがいい人たちに比べて事故率が高くなる傾向を示した。

このほか、75歳以上のドライバーの事故率に何が影響しているのかの分析も報告された。過去5年間に第一当事者となる事故を2回以上繰り返す「事故反復傾向」のドライバーは、2回以上繰り返していない人より約4倍もリスクが高いことが分かった。年齢に関しては、1歳ずつ年齢が上がるごとに75歳以上のドライバーが3年間に事故を起こすリスクが高まることも分かった。

年齢別のもう一つの特徴は、出会いがしらの事故を起こすリスクが高まること。特に過去2回以上事故を繰り返している人たちは、正面衝突事故などのいわゆるドライバーの危ない運転行動によって発生する事故リスクが高まる傾向にある。

これらの分析により、75歳以上になって高齢者講習で認知機能検査を受けた時には、自分でも認知機能の低下が分からない人たちがクルマの運転を続けることで一番悪い人たちより事故率が高まることが明らかになった。

報告では、交通違反を繰り返すドライバーがどういった事故を起こすのかの関連性を調べた分析も公表された。過去5年間に2回以上、同じ違反で検挙される、いわゆる累犯のドライバーに注目した。こうしたドライバーが事故を起こした時に認知の影響が関係していた事故だったのか、判断系の影響が強く出た事故だったのかといった事故の人的要因と、過去5年間で2回以上同じ違反を起こした関連性を分析した。

加齢の影響を調べるために、若いグループ、中高年、高齢ドライバーのグループごとにそれぞれ違反と事故の関連性を調べた。
高齢ドライバーの結果では、過去5年間で一時停止をしないことで検挙されたドライバーは、事故を起こしたときに第一でも第二当事者でも安全確認を怠っているという事故を起こしていることが分かった。だた、これと全く同じパターンは高齢ドライバーだけに見られるのではなく、中年ドライバーにも同じパターンが見られることが分かった。

つまり、高齢者の予防対策をする場合、75歳以上の高齢ドライバーになってからでは遅いということ。こうした行動系に表れる累犯者に着目し、中年期から長期の視点で対策をしていくことの必要性が浮かび上がった。

報告を整理すると、運転操作と病的加齢の認知症という先行研究を調べると確かに関連性は見受けられる。だが、認知症になった人がそうでない人に比べて事故率が本当に高いかといえば、その関連性はほとんど見られていない。

それでは一体、なにと関連性があるのか。加齢による進行性の機能低下が事故発生に関係していることが明らかな以上、まずはこの観点からの対策が必要になる。もう一つは違反と事故の関連分析によって、違反と事故のパターンはドライバー自身の不安全な認知・行動を反映している。これは高齢者だけではなく、中年期、さらには青年期から同じパターンが見られることに特徴がある。

この二つの分析により、高齢ドライバーの事故は認知機能の低下だけではなく、極めて複雑な要因がさまざまに関係して起きることが分かった。いま行われている人視点の対策は、認知症の病的加齢に着目した対策が主体になっている。

しかし、高齢者の安全なモビリティを確保するためには、高齢期になってからの対策ではなく、それ以前の中年期、青年期からの個人特性や安全態度などを含めた移動行動特性に基づく長期的視点による交通安全対策の設計が重要になると提言する。

日刊自動車新聞8月10日掲載

開催日 2019年7月24日
カテゴリー 白書・意見書・刊行物
主催者

交通事故総合分析センター

対象者 一般,自動車業界
リンクサイト

交通事故総合分析センターホームページ http://www.itarda.or.jp/

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