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2019年8月8日

EVの駆動形式が多様化 車づくり見直すきっかけに 小さいモーター、レイアウト自由度高く

電気自動車(EV)の本格的な普及に向けて駆動形式が多様化しそうだ。内燃機関の場合、重量と体積がかさむエンジンの搭載位置は限られていたが、モーターやバッテリーの設置位置の自由度が高いEVは、メーカーや車型によって各々のレイアウトを採用している。コンパクトカーではガソリン車の多くが前輪駆動であったのに対し、EVではモーターをリアに搭載し後輪を駆動する「RR」が主流となる可能性もある。EVは従来のクルマ作りをゼロベースで見直すことになり、メーカーの個性が表れ始めている。

ガソリン車には、車両前部にエンジンを配置し、操舵と駆動を前輪でまかなうFF(フロントエンジンフロントドライブ)、前部のエンジンからプロペラシャフトを介して後輪を駆動するFR(フロントエンジンリアドライブ)、FFないしFRベースで4輪を駆動する4WD(フォーホイールドライブ)があり、運動性能や居住性能など求められる性能によって使い分けている。一部のスポーツカーなどには車両後方にエンジンを搭載して後輪を駆動するRR(リアエンジンリアドライブ)も存在する。主流はコストと室内空間で有利なFFだ。

[従来のエンジン車と異なる発想で] 一方、パワートレーンがコンパクトでレイアウトの自由度が高いEVは、従来のエンジン車とは異なる発想で設計ができる。EVの運動性能と航続距離を左右するバッテリーは、多くの車種が床下に配置している。2010年に登場した日産自動車「リーフ」は、リチウムイオン電池を床下に配置する専用設計のプラットホームを採用。ただ、一部を既存のFF車と共有化するため、モーターやインバーターをガソリン車と同様にフロントに配置し前輪を駆動する。

加速性能や航続距離が求められる高価格帯のEVは欧米メーカーが多く商品を投入するが、前後にモーターを配置して4WDを採用するケースが目立つ。テスラの「モデルS」は初期モデルは後輪車軸にモーターを積んでいたが、15年から前輪にもモーターを追加して4WD化して高性能化を果たした。

ジャガー初のEV「I―PACE(アイペース)」は、フロントとリアアクスルと一体化したモーターで4輪を駆動する。メルセデス・ベンツの「EQC」はEV専用のプラットホームを用意せずSUV「GLC」と共有化し、SUVの車高の高さを利用してバッテリーを床下に搭載、前後輪にモーターを備える。EQCはガソリン車やハイブリッド車(HV)などと混流生産しており、EV需要を見越しながらフレキシブルな生産体制を取っている。

[床下バッテリーで前後の重量均等に] 今後市場投入されるコンパクトカーでは、後輪駆動が主力になりそうだ。EVでは重量がかさむバッテリーを床下に配置することで前後の重量配分を均等にすることが可能となる。スペースが限られるコンパクトカーでは、より広い室内と運動性能を両立するために、エンジン車とは異なるレイアウトを採用することになる。

ホンダが欧州や日本向けに投入するコンパクトEV「ホンダe」では、床下にバッテリーを搭載してモーターはリアアクスルに設置する後輪駆動車となる。トヨタが20年に国内投入する超小型EVについても、居住スペースの確保や後方からの衝突安全確保の観点からモーターをリアに設置する見通しだ。

フォルクスワーゲンが19年末に欧州に投入するコンパクトEV「ID3」ではEV専用プラットフォーム「MEB」を採用し、モーターとギアボックスをリアアクスルに組み込む。ただ、MEBはコンパクトカーだけでなく大型セダン、バンまでカバーしていく方針だ。ホンダもホンダe以降に投入するEVで採用する「BEV用アーキテクチャー」では後輪駆動をベースとしながら、SUV、CUV、セダンと3種類のアーキテクチャーを構築して、多様な車型に対応する。

世界的に厳しさを増す環境規制に対して各メーカーはEVの投入を急ぐが、地域によって規制やニーズは大きく異なる。地域ごとに最適化したEVを投入できるかが普及のカギを握る中、さまざまな車型に対応できる柔軟性を持ったプラットホームがEVの主流となりそうだ。

日刊自動車新聞8月5日掲載

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