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2019年7月9日

自動運転・モビリティサービスで変わる未来懇談会を設立 利用者や自治体が享受する果実とは 社会にもたらす影響を議論

慶應義塾大学大学院の岸博幸教授が座長を務める「自動運転・モビリティサービスで変わる未来懇談会」は2日、都内で設立会見を開いた。2030年をターゲットとして自動運転に実用化で変わる暮らしや地域、観光を住民や社会の視点から予測する初の試みとなる。岸座長は「自動運転は技術動向ばかりが注目され、社会や経済活動にもたらす影響が議論されていない」と指摘し、「利用者や自治体が自動運転の果実を享受するための議論を行う」と述べた。

[今秋めど政策提言 自動運転の議論を技術動向にとどめず、社会にもたらす影響にも広げることを世論に喚起する目的で設立した。メンバーは岸教授をはじめモビリティサービスディレクターや弁護士、交通学者、自動車評論家の5人で構成。複数回の議論を経て、今秋をめどに政策提言をまとめる。
懇談会は、10年後(2030年)の自動車は緊急自動ブレーキや自動駐車など高度な先進運転支援システム(ADAS)に加え、高速道路での完全自動運転機能を備えた車両が大半を占めるようになると予測する。また、地方都市ではエリアを限定した自動運転バス、小型モビリティや乗用車のカーシェアリングが充実すると想定。自動車を取り巻くこうした環境の中で、人々の暮らしや企業の経済活動、観光がどのように変化するか「地に足の着いた」(岸座長)議論を開始した。
まずは自動運転で変わる自動車ユーザーの意識や行動の変化を予想する。車両の安全性が向上することで日常生活や仕事で自動車を利用する機会が増加する。また、高速道路上の完全自動運転で渋滞回避などが期待できて休日に買い物やレジャーで遠出する機会も増える。地方都市ではモビリティサービスで通勤や来訪者のアクセス手段が豊かになり、ビジネス環境が格段に向上するとみている。
こうした意識や行動の変化を都市中心部、都市郊外部、地方都市部、地方中山間・島嶼部、観光地の五つに分けた地域区分で議論、分析する。例えば、地方都市部や都市郊外部では職住近接で暮らす「ニューエコノミックエリア」と呼ばれる経済圏が形成されると予測。岸座長は「衣食住を一つの都市で完結する人口30万~50万人のヨーロッパ型の都市が増える」と予想する。他方、遠出する機会の増加や訪日外国人が利用できるモビリティサービスも充実してレンタカー利用などによる周遊観光が拡大し、年間訪問者数1千万人規模のメガ観光都市も新たに創出されると予想。移動が利になることで「メガ観光地になり得る都市はいくつもある」と効果の大きさを指摘する。

[受け入れ体制なども] だが、自動運転が普及するだけでこれらが実現できるわけではない。自動運転の利点を享受するために、①モビリティサービス事業の運営と利用者双方のハードルを下げる②メガ観光都市の訪問客数増加を見据えた受け入れ環境の整備③ニューエコノミックエリア形成に向けたオフィスや産業などの積極的誘致④交通需要の変化に対応する道路環境の整備―など、効果を増大させるための受け入れ体制も議論する。
岸座長は自治体の顧問を務める経験から「自動運転のインパクトを分かっていない自治体も多いが、話をすれば期待感を示す自治体も多い」と話す。過疎地域の交通事業者なども「地域に根差してきた経緯から(赤字のため)撤退したくてもできない状況にある」など、地方にとって交通インフラの再構築が喫緊の課題だからだ。自動運転がもたらす影響を享受できれば「地方都市を活性化する起爆剤となる」と力を込める。地域限定の自動運転バスやカーシェアといったモビリティサービスは、現時点で「利益が出せる見込みがない」など一筋縄ではいかない問題もあり、「事業性を高めるために何が必要か、自治体の補助金を使えるのか」なども議論する。こうした予測が実現されるためには「メーカー各社がいち早く普及価格帯や軽自動車に高度化したADASや自動運自動運転・モビリティサービスで変わる未来懇談会転機能を標準装備することを期待する」としている。

日刊自動車新聞7月6日掲載

開催日 2019年7月2日
カテゴリー 会議・審議会・委員会
主催者

自動運転・モビリティサービスで変わる未来懇談会

対象者 大学・専門学校,一般,自動車業界