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2018年12月19日

“走る実験室”モータースポーツ、人材育成やクルマファン獲得にも期待

車両性能や運転技術の限界に挑むモータースポーツ。高い技術力を世界中に宣伝し、自社ブランドを浸透させる手段として自動車各社が大金を投じる。CASE時代に入っても“走る実験室”の役割は不変だが、近年は人材育成や自動車ファンを増やす効果にも期待がかかる。

◆データやコネクテッド技術でも火花
内燃機関技術の成熟や環境意識の高まりで一時は不要論もささやかれたが、今どきのモータースポーツは燃費との戦いでもある。
例えば世界最高峰のフォーミュラワン(F1)。かつてのエンジンサプライヤーは「パワーユニットサプライヤー」と呼ばれる。2014年シーズンから運動エネルギー回生システム(MGU―K)、熱エネルギー回生システム(MGU―H)という2種類のシステムが義務づけられたからだ。
ホンダが15年シーズンからF1に復帰した理由の一つも、こうした環境技術を磨く場として適しているためだ。「馬力に力点を置いたエンジン開発の時代から、エネルギー効率を追求したシステムを含めたパワーユニットの開発にシフトすることで、環境技術の導入による究極のエネルギー効率の実現が期待される」と同社は説明する。日産自動車は電気自動車(EV)による「ABBフォーミュラE」に参戦。停止状態からわずか3・4秒で時速100キロメートルに達する「リーフ」のレース仕様車も開発し、EVの走行性能をPRする。
トヨタ自動車の友山茂樹副社長は「近代のモータースポーツはコネクテッドと深い関係がある」と話す。トヨタはル・マン24時間耐久レースで優勝した「TS050ハイブリッド」のパワーユニットを移植した「GRスポーツコンセプト」を市販する予定。友山副社長は「1千馬力級のパフォーマンスを余すことなくご利用いただくためにTS050同様のコネクテッドカーとなる」と明言する。リアルタイムの走行データに基づくドライビングサポートやリモートメンテナンス、車載システムのプログラム更新を行う予定だ。「最新のレーシングカーは最先端のコネクテッドカーでもある」と友山副社長が言うように、現代のモータースポーツはデータ抜きでは成立しない。コネクテッド技術でも参戦各社はしのぎを削る。

◆極限状況で鍛える
「結果がすべて」というモータースポーツは、技術開発と同時に戦略性や決断力、組織力などを養う場でもある。トヨタの高橋敬三GRマーケティング部主査は「ある目標を達成したからそれで終わりではない。常に進化が求められる」と指摘する。進化し続けるためのスピード感も市販車開発とは桁違いだ。市販車は数年かけて開発されるが、モータースポーツはわずか一週間後のレースに間に合うよう開発やパーツ製作を進めることが日常茶飯事だ。「エンジニアは極限の環境下に置かれ、短期間で結果を出さなければならない。いかにアイデアを出し、問題に素早く対処するか。そこに人材育成の効果がある」(同)。ホンダの山本雅史モータースポーツ部長も「速い車を作るからこそ、走る・曲がる・止まるの3原則が重要になり、その技術ノウハウはエンジニアに蓄積される」と話す。完成車メーカーに限らず、サプライヤーも想いは同じだ。

◆クルマの魅力を五感で感じる
自在にクルマを操れる楽しさだけでなく、耳をつんざくエンジン音、焼けたオイルの匂い、低く流麗なスタイリング…モータースポーツはクルマが持つ本質的な魅力を五感に訴える。だからこそ自動車メーカーは競いつつ、メーカーの垣根を越えてクルマファン作りでは協力し合う。例年、11月下旬から12月上旬にかけて行われるメーカー主催のファン感謝イベント。これまではメーカーごとに開くのが通例だったが、来年3月にはトヨタとホンダが「モースポフェス」として共催する。「メーカーの垣根を越えてモータースポーツの魅力を伝える」(ホンダの山本部長)のが狙い。他メーカーの参画も視野に入れているという。

いま、自動車産業はCASE、MaaSに代表される変革期に直面している。所有するステイタス、走る歓びといったクルマが持つ本質的な魅力を伝え、未来永劫、クルマがクルマの魅力を持ち続けるためにも、今一度、モータースポーツが果たす役割を再定義し、ファンを増やす取り組みが求められる。

日刊自動車新聞12月15日掲載

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
主催者

日刊自動車新聞社調査

対象者 大学・専門学校,一般,自動車業界