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2018年8月19日

〈日刊自ニュース知ったかぶり!?〉自動車安全特別会計への繰り戻し

■未回収6千億円、予算要求の動きに注目
Q まもなく来年度予算の概算要求の時期だね。自動車関係の特別会計(特会)が注目されているようだけど。
A 自動車安全特別会計への繰り戻しのことですね。自動車安全特会は、1955年に設置された自動車損害賠償保障事業特別会計と64年設置の自動車検査登録特別会計の二つを統合して2008年度に設置された特会です。この特会は、自動車ユーザーから徴収した検査・登録手数料、自動車ユーザーからの賦課金、積立金として管理している自賠責保険の再保険契約に関わる再保険料、過去の再保険料の運用益を財源としています。自動車の検査・登録業務、基準適合性の審査、ひき逃げ・無保険車の被害者救済対策、再保険金の支払い、事故による重度後遺障害者等の被害者救済対策、事故発生防止対策などに使われるお金です。

Q ずいぶんと、たくさんのお金がありそうだね。
A 国土交通省によると、18年度予算で無保険車やひき逃げなど自賠責での救済が受けられない被害者に支払う「保障勘定」が約30億円、交通事故で重度の後遺障害を負った人たちを治療する施設の運営や先進安全自動車(ASV)の導入補助、衝突試験の結果などを公表する自動車アセスメントなどに使う「自動車事故対策勘定」が約137億円、自動車の適切な保守管理の促進に使う「自動車検査登録勘定」が約353億円、さらに自動車とは少し毛色が違うけど空港関連施設の整備に使う「空港整備勘定」の約4300億円があります。空港整備勘定は特会の改革が進む中で、国交省が管理する自動車安全特会にぶら下がったという形です。
これらは単年度の予算額であって、自動車安全特会には18年度末時点で総額8474億円の積立残高があると見込まれています。このうち、1128億円が保障勘定で、自動車事故対策勘定は7346億円となっています。

Q 積立残高って貯金額のことだよね。すごい額だ
A とはいえ、このうち4分の3近くが、今、特会という金庫の中にはない“幻のお金”なんです。

Q どういうこと?
A 実は1994年度と95年度の2年間、赤字国債の発行を抑制するため、当時は自賠責特会と呼んでいたこの金庫から1兆1200億円ものお金が一般会計に繰り入れられたのです。つまり、貸したわけですが、貸したからには、返してもらわないといけません。そこで、94年2月に当時の藤井裕久大蔵相と伊藤茂運輸相が4年間で全額を繰り戻す、つまり返済することで合意しています。こうした合意は数年ごとに繰り返し行われてきたのですが、その約束のほとんどが反故にされてきました。10年には野田佳彦財務相と馬淵澄夫国交相が12年度からの7年間で完済する約束をしたのですが、完済はおろか、1円も返済されていません。特に、自動車事故対策勘定では年間百数十億円を支出していて、このままのペースでは10年ほどで、積立金が枯渇してしまいます。貸したはいいけど、手持ちのお金がないと将来が心配、ということです。国交省は、そこに危機感を持っています。

Q 財務省は借金を踏み倒しちゃうつもり?
A いいえ、少しは返ってきていて、03年度までに6921億円が返済されています。しかし、03年度以降、返済がストップしていました。そして18年度の予算で、15年ぶりに23億2千万円の返済が決まりました。全体からすれば、わずかな額ですが。これで、返済の総額は6944億円になりました。

Q でも、まだ6159億円が残っているよね?
A 元本4848億円と利子相当額1311億円ですね。その返済と回収に向けた動きも活発になってきています。17年12月には麻生太郎財務相と石井啓一国交相が、返済期間を4年に短縮するとともに、「被害者等のニーズに応じて、被害者保護増進事業等が安定的、継続的に将来にわたって実施されるよう十分に留意」などの文言を新たに追加して合意しました。19年度からの4年間で、全額を返済するという約束です。この約束について、石井国交相は「従来よりも踏み込んだ内容となっている。貴重な財源であり、繰り戻しは着実になされるべき。まずは18年度の予算要求で、財務省と十分に協議したい」とコメントしています。4年間の返済期限の初年度となる19年度予算要求、つまりは最初の一歩に注目したいですね。

Q 6千億円が返ってきたら自動車特会はどうなるの?
A かつて自賠責特会だった時代に国の再保険事業を廃止した時、運用益として約2兆円が生じました。このため、このうちの約1兆1千億円を自賠責の保険料値下げという形でユーザーに還元したことがあります。残りの約8700億円のうち一部が、今の自動車事故対策勘定に充当されました。でも、返済金は運用益ではないので、ユーザーに還元されることはないでしょう。自動車事故対策勘定と保障勘定を“目に見える貯金”にすることが先決でしょう。

Q 被害者救済や事故防止はどうなるのかな。一気に対策費が増えるの?
A それは、まさに合意文言の中にある「被害者等のニーズに応じて」という部分と「安定的、継続的に将来にわたって」という部分のバランスでしょう。少子高齢化という社会情勢の中で、交通事故被害者が安心して生活できるように救済事業を充実しなければなりませんし、これを将来的にわたって継続していかなければなりません。当然、無駄遣いは絶対に許されませんね。

日刊自動車新聞8月14日掲載

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
主催者

日刊自動車新聞社

対象者 一般,自動車業界