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2018年5月11日

軽量化の有力技術、進化するマルチマテリアル

素材各社が、自動車の二酸化炭素(CO2)排出規制への対応や、電気自動車(EV)の航続距を延ばすのに欠かせない車体軽量化を実現する有力技術として「マルチマテリアル」の提案に力を入れている。

マルチマテリアルは鋼材、アルミニウムをはじめとする金属・非鉄金属や炭素繊維複合素材(CFRP)などの樹脂材料を組み合わせて、コストを抑えながら重量の削減を図る手法。異種材の組み合わせは接合部の強度確保が難しいなど課題があるものの、各社は溶接や接着の技術進化によって量産車への適用にめどをつけつつある。
マルチマテリアルについて、自動車メーカーの開発担当者は「アルミ押出し材やCFRPを車体に盛り込むと部品の厚みや形状の大幅な変更、中空化が可能になる。鋼材を中心とした従来車体と比べ、設計の自由度が高まり、軽量化の効果を引き出しやすくなる」と期待する。
その一方で「自由度が高まった分だけ選択肢が増えるため、どれが最適な設計なのか答えを出しにくくなる」と、設計の難易度が高まることを懸念する声もある。

素材各社は、こうした懸念を払拭するため、異種材の接合技術に加え、具体的な活用事例を示していくことによってマルチマテリアルの受注獲得を目指している。

◆コストアップ抑制と強度向上を両立
マルチマテリアル化の取り組みでは、自動車向け材料を取り合ういわばライバル関係にある鉄鋼メーカーと樹脂メーカーが連携して技術開発に取り組むケースも出てきた。JFEスチールと三菱ケミカルは、軽量な炭素繊維複合素材(CFRP)を補強材に活用して、ハイテン材製ドアパネルの重量を10%以上軽くするとともに、軽量化によって失われがちだったパネル面の剛性確保を可能にする新技術を共同で開発した。
アルミなどのコストの高い素材を使わずにドアパネルを軽量化するには、鋼板の薄板化が必要になる。ただ、板厚が薄くなるほど面剛性が低くなって表面がたわみやすくなり、品質感が損なわれるという問題がある。このため、従来、薄板化は厚み0・6ミリメートル程度にとどまっていた。
両社が開発した新手法では、板厚を0・5ミリメートルにした上で、不規則な曲線を組み合わせた複雑な形状のCFRP製シートをパネル裏面に貼り付けて強度を確保。こうした工夫によって従来比12%の軽量化と高剛性を両立、品質劣化を防いだ。
また、マルチマテリアルによって車体生産を効率化するシステムの実用化も進んでいる。神戸製鋼所は、産業用ロボット大手のファナックと組み、超ハイテン材とアルミの接合を高強度で実現するロボットシステムを開発した。神戸製鋼が考案した「エレメントアークスポット溶接(EASW)」という精密な接合作業を、ファナックのロボット技術によって実現し、自動車の車体組み立てラインで活用することを想定している。摩擦攪拌接合(FSW)など、既存の異種金属の接合手法を上回る接合強度を実現できるという。

◆異種材の接合にセンシング技術
EAWSは、アーク溶接と“エレメント”と呼ばれる中空状のリベットを活用して異種材を接合する。作業では、まずハイテン材に、複数の穴の開いたアルミ材の接合部分を重ね合わせる。その後、アルミ材の穴にエレメントを嵌合し、その中空部分にアーク溶接で溶接用の金属を流し込み、エレメントとハイテン材を溶接する。エレメントとハイテン材でアルミ材を強固に挟み込み、ハイテン材とアルミの接合を完了させる。加えて1メガパスカル級超のハイテン材同士の接合でも高い強度を確保できる技術だという。
EAWSを実現するのに穴の位置の正確な検知や、直径がほぼ同等の穴の中にエレメントを正確に嵌合することが難しく、自動化が難しかった。これらをファナックのセンシング、制御技術によって克服し、自動化にめどをつけた。
自動車各社は環境規制の強化に伴って自動車の低燃費化や、EVの航続距離を伸ばすための軽量化に力を入れている。ただ、軽量化材料はコストが高いことがネックだ。マルチマテリアルは、高価な素材の活用を一部にとどめてコストを抑えつつ、軽量化効果を引き出すことが可能で、今後、ますます開発競争が活発になりそうだ。

日刊自動車新聞5月8日掲載

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
主催者

日刊自動車新聞取材

対象者 自動車業界