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2026年10月27日

連載「薄氷の日本グランプリ 鈴鹿F1観客輸送の課題」(上)交通事業者の苦闘

四輪レースの世界最高峰、F1(フォーミュラワン)日本グランプリ(GP)の継続開催が岐路に立たされている。今年3月に鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)で開催された日本GPには、ここ20年で最多となる31万5000人の観客が訪れた。一方で、現地の公共交通機関や道路網のキャパシティーを超える人と車両が集中した結果、観客輸送を担うシャトルバスの長時間待ちや交通渋滞など、さまざまな問題が顕在化している。米ネットフリックスのドキュメンタリー番組やハリウッド映画のヒットを追い風に、世界屈指のエンターテインメントに成長したF1。人口19万2000人の地方都市鈴鹿に、巨大コンテンツを受け止める“地力”はあるのか。観客輸送の課題と展望を探った。

3月29日の決勝レース後サーキット内のシャトルバス乗り場には長蛇の列ができた

■パンク寸前のシャトルバス

 

「観客輸送はパンク寸前。もし悪天候など不測の事態に見舞われれば、どんな状態になるか予想できない」。観客輸送の主要ルートである、鈴鹿サーキット~近鉄白子駅間をシャトルバスでつなぐ三重交通(田端英明社長、津市)。バス営業部の竹原史郎部長は、F1会期中の交通状態に危機感を募らせる。

白子駅からのシャトルバスは、F1開催時の主要ルートだ

同社はF1開催週の木曜日から日曜まで、バスを用いた観客輸送を手掛ける。今年はサーキットと白子駅を結ぶ乗り合いバスに60台、名古屋市内とサーキットをつなぐ高速バスなどに647台、計700台以上を用意。4日間で延べ9万5000人以上を輸送した。

日本GPの観客動員数は年々伸びている

三重交通が特に問題視しているのが、シャトルバスの待ち時間だ。今年はレースカーが走行しない木曜日でも、観客は屋外で2時間に及ぶバス待ちを強いられることがあった。予選と決勝が行われる週末となれば、競技終了後に鈴鹿サーキット内のバス乗り場で3時間近くの待ち時間が表示されることもある。

 

■高まるインバウンド需要

同社によると、2026年の日本GPでは延べ7万7000人以上がサーキット~白子駅のシャトルバスを利用した。その数はここ数年で急速に拡大している。24年の利用者数は6万人弱と、わずか2年で3割も増えた。鈴鹿サーキットで過去最多36万人の観客を集めた06年は5万人に過ぎず、同年比では52.2%増えた格好だ。

三重交通による観客輸送数も増えている

この背景には、インバウンド(訪日外国人旅行者)の増加がある。鈴鹿サーキットを運営するホンダモビリティランド(HML、斎藤毅社長、三重県鈴鹿市)によると、今年の日本GPでは観客の33%が海外からの来場者だった。土地勘のない訪日客にとって、駅で乗車すればそのまま現地まで向かうことができるシャトルバスは利便性が高い。インバウンドの増加が、シャトルバス利用者数を押し上げていると見られる。

ただ、数時間に及ぶバス待ちは日本GP観戦の障害になりかねない。現状のままでは竹原部長が指摘するように、悪天候時でも数万人が長時間の待機を強いられる恐れがある。実際、富士スピードウェイ(静岡県小山町)開催だった07年のF1では、帰路に就いた観客たちが冷たい雨の降りしきる中、シャトルバス乗り場で何時間も足止めされた。当時の混乱は観客からの訴訟にも発展。裁判所が富士スピードウェイに、賠償金の支払いを命じた前例もある。

シャトルバスでのスムーズな移動を実現するために、解決策はあるのか。竹原部長は「われわれは最大限の能力を持って臨んでいる。これ以上効率良く輸送するためには、観客が乗降するサーキットや白子駅の待機場所拡張など、ハード面の強化が必要」と、他の事業者との連携の重要性を強調する。

 

■来季は新たな課題も

来春の日本GPに向けては、さらなる懸念も生じている。日曜日の決勝とは別に、短距離レース「スプリント」が土曜日に行われることだ。その予選走行は金曜に予定されているため、平日の観客とシャトルバス利用者は共に増えることが予想される。竹原部長は「土・日は周辺道路で交通管制が実施されており、道路上での車両の流れは比較的スムーズ。ただ金曜日は管制もなく、ホンダの鈴鹿製作所をはじめ近隣事業者の通勤・帰宅ラッシュと重なる」(同)といい、シャトルバス輸送のさらなる混乱を予想する。

個社では対応できない難題に、いかにして解決の筋道を見つけるか。“モータースポーツのまち”を自任するホストシティーの鈴鹿市が観客輸送の問題に本腰を入れ始めた。

日刊自動車新聞10月27日掲載