国産の人工知能(AI)に向けた基盤モデルを開発する活動が本格的に始動した。5年間で1兆円の補助金を支給して活動を支援する経済産業省は、7月16日に都内のホテルでキックオフイベントを開催した。さまざまな産業に活用できるAIを開発するための「マルチモーダル基盤モデル」は、工場で自律的に作業するAIロボットに加え、自動運転向けAIの開発などにも活用できる見込み。日本独自のフィジカルAIモデルを構築して、AIで先行する米国や中国に追い付くことを目指す。
キックオフイベントの様子
国産AI基盤モデルは、ノエトラ(丹波廣寅社長、東京都渋谷区)が産業技術総合研究所と連携して研究・開発を進める。ノエトラはソフトバンク、ホンダ、ソニーグループ、NECの4社が主要株主で、サカナAI(デビッド・ハCEO、東京都港区)、安川電機など、幅広い業種の国内企業44社が出資している。
ノエトラの丹波社長
AIモデルは米国や中国で先行しているが、自国内にあるデータを海外に流出させずに自国に適したAIモデルを構築する「ソブリンAI」の重要性が高まっている。日本はものづくりの現場で活用されているロボットに強く、これにAIを搭載して自律制御するフィジカルAIの分野で優位性があることから、国産のフィジカルAIの基盤モデルを官民連携で開発し、日本企業の産業競争力の強化につなげる。
基盤モデル開発に協力するエヌビディアのジェンスン・フアンCEO(最高経営責任者)のトレードマークである革ジャンを着てイベントに登壇した赤澤亮正経済産業大臣は、「信頼あるフィジカルAIを社会実装し、日本全体のAIトランスフォーメーションを進め、世界が抱えるさまざまな社会課題解決に貢献する。技術で勝ってもビジネスで負けると言われてきた日本だが、技術で勝ってビジネスでも勝ち切ることを目指したい」と述べた。
基盤モデルの開発に向けてノエトラは、エヌビディアの約2万7500基の「ルービンGPU」と1万3750基以上の「ベラCPU」を搭載し、データセンター電力容量140メガワットのAIファクトリーを2028年6月までに構築。オープン基盤モデルを開発して提供する。当面は既存の計算基盤を活用して26年度中に最初のモデルを公開し、毎年公開モデルを継続的に提供していく。
26年度に1兆パラメータ級の大規模な「読み」と「推論」の基盤モデルを開発し、その後は「見る」「聞く」「物理状態を理解する」などを段階的に1つのモデルに統合。30年度には、実際の世界を理解して教育しなくても現場作業ができるAIにつなげる。
基盤モデルは、自動車・部品メーカーの工場などで従来は人でしかできなかった作業を、AIで自律的に作業するロボットに置き換えるAIモデルの開発が可能になる。また、自動運転車もフィジカルAIの一種で、高度な自動運転車の開発にも活用できる見通し。
イベントに参加したエヌビディアのフアンCEOは「最高の品質、最高の精度、匠、改善、カンバン、現場の概念は日本の産業知識そのもので、これを運用する知識を失ってはならない」と述べ、日本独自のAIモデルを開発する重要性を指摘した。
また、ノエトラに出資しているホンダの三部敏宏社長は「これまでのものづくりで培った技術や知見を活かしながら、ノエトラを通じた共創から生まれる技術の社会実装を進め、モビリティやロボティクスをはじめとする領域における社会課題解決、新たな価値創造に貢献していきたい」とコメントしている。













