INFORMATIONクルマの情報館

自動車産業インフォメーション

2026年6月18日

日産、新型キックスで母国市場の復権へ 300万円切る戦略的な値付け 国内投入を前提につくり込み

日産自動車が国内市場で反転攻勢に打って出る。6年ぶりに全面改良するコンパクトSUV「キックス」は販売ボリュームを稼ぎ、事業の安定性を支える「コアモデル」と位置付ける。同カテゴリーは競合車がひしめく激戦区だが、旧型キックスは設計の古さや価格面で苦戦を強いられていた。新型車は第3世代「eパワー」を国内モデルで初搭載するなど商品力を引き上げつつ、エントリーモデルで旧型を下回る戦略的な値付けで巻き返しを図る。経営再建中の日産は日本を米国、中国と並ぶ「リード市場」に据えており、新型キックスは母国市場の“復権”を占う試金石となる。

 

■国内販売を支えるモデルに

「日産の成長に向けた重要な一歩となるモデルだ」。6月17日、都内で開いた発表会で国内販売を担当する杉本全執行職は新型キックスをこう紹介した。国内登録車市場で最大規模のセグメントに投入する新型車だけに「国内販売を支える、中核を担う台数を狙う」と強調する。

ただ、日産は国内不振が鮮明だ。新型車の投入遅れに加え、ホンダとの経営統合破談やリストラに伴うブランドイメージの低下が響いた。2025年度の販売台数は39万台となり、20年前の05年度(84万台)から半減している。

 

■割高感が否めなかった旧型

売れ筋のSUVカテゴリーでありながらキックスも苦戦を強いられており、販売台数はこの3年間で半減した。販売不振の理由について、販売店首脳は「値付けだ。競合車と比べて高い」と指摘する。競合車種としてはホンダ「ヴェゼル」やトヨタ自動車「カローラクロス」「ヤリスクロス」などが挙がるが、キックスはハイブリッド車のみの設定でスタート価格の割高感が否めなかった。

新型のエントリーモデルは旧型を下回る299万9700円とした。単純に装備を減らしただけではなく、オプション選択の幅を狭めて生産効率を上げることで戦略的な価格を実現したという。杉本執行職は「戦略的なエントリーモデルを設定し、より多くの顧客に日産に振り向いてほしい」と説明する。

 

■タイ生産から国内生産に切り替え

旧型キックスは19年まで国内で販売していたクーペSUV「ジューク」の後継モデルとして販売を開始した。ジュークは斬新なデザインが特徴だったが、室内空間が狭いため国内では販売が伸びず、ラテンアメリカや東南アジアを主力市場としタイで生産していたキックスを国内に導入した経緯がある。

タイ生産車だったことについて、販売店首脳は「ユーザーはほとんど気にしていない。今はPDI(納車前整備)がしっかりしているので昔のような品質問題もない」と話す。ただ、ベースモデルの導入から10年が経ち、基本設計の古さから、モデルサイクル後半の販売は競合車の後塵を拝していた。

新型車は、日本を含めたグローバルでの展開を視野に、品質やデザインをつくり込んだという。内外装は日本市場向けに意匠や材料などを変更している。生産地はタイから国内に変更し、追浜工場(神奈川県横須賀市)で生産する最後の新型車となる。北米など他地域向けモデルでは、未設定の第3世代「eパワー」を初搭載し、大幅に向上した燃費性能と静粛性を強みに競合車に対抗する。

 

■事前受注は好調な滑り出し

販売店では11日から事前受注を開始した。数千台規模の受注を獲得したもようで、滑り出しは好調なようだ。足元では「ルークス」「リーフ」などの新型車効果で国内販売の勢いを取り戻しており、「この流れをキックスで増していきたい」と杉本執行職は力を込める。国内向けでは新型「エルグランド」の販売を控える。新型車の攻勢を強め、30年度国内販売55万台の目標達成を目指す。

(編集委員・福井 友則)


「成長に向けた重要な一歩となるモデルだ」と述べる
杉本執行職(左)


対象者 自動車業界

日刊自動車新聞6月18日掲載