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2026年6月3日

量子コンピューターの活用に自動車業界が関心 高い計算能力で産業競争力強化へ 課題は技術の使いこなし

自動車業界で量子コンピューターの活用への関心が高まっている。日産自動車は新興のキューミックス(松下雄一郎社長、東京都中央区)と組んで空力シミュレーション技術などへの活用を目指している。キューミックスはホンダや住友ゴム工業とも、研究開発の高速化に向けて組んでいる。政府も量子を「戦略17分野」の一つに位置付け、投資を後押しする。一方、量子コンピューターの実用化は2030年代と言われ、本格的に効果が現れるのには時間も費用もかかりそうだ。

■スパコンで1万年かかる計算を200秒で

量子コンピューターは量子力学を使い、従来の「古典コンピューター」では難しかった、複雑で負荷もかかる計算を可能にする。科学技術計算を目的とするスーパーコンピューター(スパコン)で1万年かかる問題が3分20秒で解けるほどの性能とも言われる。「ジャパンモビリティショー2025」では富士通が量子コンピューターを展示し、注目を集めた。

■自動車業界への期待

政府は量子技術の産業利用を後押しする。3月に公表した戦略17分野にも組み込み、30年には量子技術による生産額を50兆円規模にする目標を掲げた。官民の投資も後押ししていく。

「何より恩恵にあずかることができる企業群は自動車や素材が多い。それが日本の狭い国土に集積している」。キューミックスの中土井利行副社長は、広大な国土を持つ米国などと比べ、日本の自動車産業と量子技術の相性の良さを説明する。特に自動車の開発では、電動化などを背景に新たな素材や工法の採用が進む一方、開発の短期化とコスト低減が求められている。複雑で膨大な計算が素早くできる量子コンピューターの活用は必然的な流れと言える。

自動車メーカーや大手サプライヤーはすでに活用へと動き出している。日産とキューミックスは量子コンピューター用のアルゴリズムを用いた車体の空力解析技術を確立し、特許も出願している。また日産は生産現場の工程編成などでも活用しており、日産自動車九州(福岡県苅田町)で試験的に導入している。

ホンダもキューミックスと組み、材料分析などでの活用を目指している。サプライヤーでも、住友ゴムもタイヤの空力シミュレーションから材料開発まで広く活用を目指している。デンソーは、量子コンピューターのアルゴリズムを古典コンピューター上で模倣する「擬似量子技術」を独自に確立し、物流の最適化などに取り組んでいる。

■全て量子コンピューターで計算したいが…

実用化への課題も少なくない。一例が量子コンピューターへの計算の置き換えだ。量子コンピューターは従来難しかった特定の計算で高い処理能力を持つものの、万能なわけではない。

日産の空力シミュレーションの場合、特に解析の条件を設定する際に古典コンピューターの方が優れている領域が一部あったため、日産は古典と量子を「分業」させるアルゴリズムを確立した。日産総合研究所の内村允宣主任研究員は「基本は全て量子コンピューターで計算したいが、得意不得意がある。現時点では活用できる領域を調べている段階だ」と話す。

ホンダや住友ゴムは量子を使った計算結果の「読み出し」に焦点を当て、キューミックスと新手法を研究している。

30年代に、日本の民間企業が広く使える環境が整っているかどうかも大きなポイントだ。各社は実用的な量子コンピューターの登場を待つことなくアルゴリズムの先行開発を進めるが、実運用に当たってのスキームなどの課題への対応はこれからだ。

量子コンピューターの計算能力は、バッテリーやパワー半導体の材料の検討など、次世代車の性能に直結するコア部品の開発でも威力を発揮すると期待されている。日産はより快適な車内空間を目指して、車内に入る光や熱、ノイズなどの要素を統合し、最適解を導く活用方法も模索している。クルマに新たな価値を吹き込む上で欠かせないツールになる可能性を秘めているものの、技術の「使いこなし」やコスト面といった現実的な問題への対応も今後求められそうだ。

〈用語解説〉量子コンピューター

高い処理能力を持ち、複雑な計算を得意とする。量子は物質やエネルギーの最小単位で、離れた量子同士が影響し合う「量子もつれ」など特徴的な性質を持つ。量子コンピューターではこうした量子力学を計算に応用している。現在、広く使われている「古典コンピューター」が0か1かの「2進数」で情報を処理し、足し算や引き算など単純計算を得意とするのに対し、量子コンピューターは0と1の状態を同時に持つことができ、素因数分解などを高速で可能にする。自動車業界では生産計画の最適化や新素材の開発など、複数の変数から最適解を導き出す用途が検討されている。

富士通が「ジャパンモビリティショー2025」で展示した量子コンピューターのモックアップ

車内の快適性向上などにもつながる可能性を秘めるが…(日産の新型エルグランド)

対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞 6月3日掲載