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2026年5月14日

経産省が企業買収における行動指針 7月めどに3文書公表 「『高値』望ましいとは限らず」 改めて趣旨を周知

 経済産業省は、2023年に策定した「企業買収における行動指針」について、7月をめどに、①指針のポイント②Q&A集③今後の検討課題、の3文書を公表する。日本を取り巻くM&A(企業の合併・買収)の動向が変化する中、「高い買収価格を提示した提案を選択すべき」などと一部で内容が誤解されている懸念があるとして、対応に乗り出す。高値の買収価格が必ずしも「望ましい買収」に当たるわけではないといった説明を盛り込み、改めて指針の趣旨を周知する。

 ■M&A件数は過去最多

 このほど「第10回公正な買収の在り方に関する研究会」を開き、Q&A集の骨子案などを提示した。この研究会は23年に指針の取りまとめをもって終了したが、昨今の日本企業を取り巻く情勢の変化や、24年の金融商品取引法改正などを踏まえ、26年2月に再開したものだ。

 実際に日本企業が関連するM&Aの件数と金額は、24、25年と2年連続で増加。25年は6259件、40兆円超と過去最多を更新している。26年3月には、トヨタ自動車グループの豊田自動織機に対する株式公開買い付け(TOB)が成立。買収総額は約5兆9千億円に上った。

 ■同意なき買収も

 近年では対象会社の経営陣や取締役会の同意を得ずに行う「同意なき買収」も増えている。自動車業界でも、ニデックによる工作機械大手の牧野フライス製作所へのTOB(24年12月公表)、台湾ヤゲオの芝浦電子へのTOB(25年2月公表)などが相次ぎ、対抗する「ホワイトナイト」(友好的買収者)の動向も注目された。経産省はこうした背景として「政策保有株式の減少や、資本効率への関心が高まったことがある」などの指摘を挙げる。

 牧野フライスを巡っては4月にアジア系投資ファンドのMBKパートナーズがTOBを撤回した。日本政府による「外国為替及び外国貿易法」(外為法)に基づく中止勧告を受け入れた形だ。MBKはニデックがTOBを発表したときにホワイトナイトとなった企業として知られる。

 片山さつき財務相は、牧野フライスについて「世界有数の工作機械を製造する企業であって、わが国防衛装備品の製造事業者にも広く利用されている」と説明し、技術や情報の国外流出など「国の安全を損なう」懸念があるとして、中止勧告を行ったことを認めた。

 ■望ましい買収とは

 日本企業を取り巻く環境が変化する中、指針については「高い買収価格であれば賛同しなければいけないのか」といった質問や、「株主の利益の確保だけが強調され、指針の趣旨や目的が正しく理解されていない可能性がある」といった指摘があったという。そこで経産省は、指針の趣旨を周知し、疑問点を解消する文書の作成に着手した。

 「望ましい買収」については、対象会社の企業価値向上と、株主共同利益の確保の両方に貢献する買収提案を意味するとして、高値の買収価格だけでは、必ずしも望ましい買収には当たらないとの考えを示す。

 「企業価値」については定量的な概念だとしつつ、定性的な価値であっても、経済安全保障に対応する経営(例えば、供給網の強靭化や、自社または取引先の情報流出防止策)などを通じ、定量的に将来のキャッシュフローが増加することによる価値も含まれるとの見方を示す。

 経産省は、5月末~6月に第11回の研究会を開き、パブリックコメントを経て、正式な文書を公表する予定だ。自動車業界は、地政学リスクの高まりや人工知能による技術革新の影響を受け、変化のただ中にある。業界再編が加速する中、指針が参照される機会も増えそうだ。


2023年に策定された「企業買収における行動指針」の一部


経産省は、高値の買収価格が必ずしも「望ましい買収」ではない、といった
指針の趣旨を徹底する

 

 (堀 友香)

対象者 自動車業界

日刊自動車新聞5月14日掲載