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2026年5月7日

〈インタビュー〉日本自動車工業会、佐藤恒治会長 自動車産業の“勝ち筋”見つける 本気でAI基盤構築

自動車産業を取り巻く環境の不確実性が高まっている。主要国間の緊張による地政学リスクは常態化し、人工知能(AI)がもたらす技術革新が産業構造を大きく揺さぶる。こうした中、日本自動車工業会(自工会)は自由競争を前提に協調領域を拡大し、国際競争力を業界全体で底上げするための取り組みを進めている。10年後も自動車産業が日本経済のけん引役であり続けるための“勝ち筋”について、自工会の佐藤恒治会長(トヨタ自動車副会長)に聞いた。

―日本の自動車産業が複数の危機に直面している

「5~10年先に競争力がある産業でいられるかが、今、問われている。これまでは自由主義経済に裏打ちされた個社の努力、競争原理で成長を促し、その成長が産業全体を引っ張っていく構図だった。しかし、今はブロック経済的になり、地政学的なリスクも高まっている。個社の自由競争を原動力とした経済発展の道筋で本当に良いのか。今の自動車産業に必要なことは2つあって、一つは国際競争力をつけること。規模や先進度で競うというより、産業のエコシステム(生態系)の中のチョークポイント(要衝)をいかに握るか。もう一つは供給力だ。われわれはコロナ禍の半導体不足など供給が厳しくなる時期を乗り越えてきたが、改めて今のような社会情勢になると安定的に供給し続ける力が大事になる。資材の安定調達も含めてしっかりと製品を供給し続ける力を保ち続ける。この2つの問いに答えることが自工会会長がやらなくてはならないことだと思っている」

―競争と協調の線引きは難しい

「産業全体で勝ち筋を見つける、あるいは高度な競争をするための協調領域をどう戦略的につくるか。ある種のトップダウン的なものの決め方でないと、個社のロジックの積み上げでは多分、立ち行かない時代に入っていると思う。自工会が未来に対して責任を持った行動をとっていく。これは今始まったというよりは、片山正則前会長が基盤をつくってくれたのでいよいよ進めていける」

―新7つの課題を掲げた背景は

「片山前会長時代にも『7つの課題』を掲げていて、自工会の活動をどう進めていくかという議論はすでに始まっていた。『今の延長線上にわれわれの未来はあるのか』という問いに全理事が『ノー』だ、と。ものすごい危機感の共有があった。競争力を保つために『まずはこの7つの課題から業界一致でやっていこう』となった。これはあくまでスタートであって、5~10年先に日本の自動車産業が競争力を保たれているかがKPI(重要評価指標)だ」

―目標が大きすぎると往々にして小さな実践で終わってしまうことが多い

「課題を解決していくための具体的な取り組みをいかにクリアに定義し実践していくか。その実践の中からまた課題を見つけてそのサイクルを回していく。概念論で理想の未来を議論して1年経ったら、その1年分の競争力が落ちてしまう」

―掲げたすべての課題は業界を横断したテーマとなっている

「例えば7番目のテーマ『サプライチェーン全体での競争力向上』は日本自動車部品工業会と一緒にやらないと絶対にできない。日本の自動車産業の強みは広くて深いサプライチェーンだ。ただ、5~10年後も強みのままでいられるか。われわれの開発力やスピードが世界トップレベルかというとこれは疑問だ。強みが弱みにならないようにどう構造改革するか。これは自工会だけでも部工会だけでもできない。例えば販売領域も、バリューチェーンの領域を進化させるためには自動車メーカーと販売店が同じ思いでサービスバリューを見ていかないと社会に浸透しない。自工会がリードして取り組む課題は自工会で完結するものは一つもない。産業をまたぐものであれば、私が日本経済団体連合会(経団連)副会長であることを有効に機能させる。経済界に対してモビリティ産業の位置付けや連携を働きかけることや、ベクトルを合わせて合意形成をして事業に落とし込んでいくのは、おそらく経団連の枠組みが重要になってくる」

―海外の自工会との連携も進めている

「これまでモビリティは石油由来のエネルギーが軸であって、環境に対する認識も二酸化炭素(CO2)を減らす手法論はそれほど変わりがなかった。地域ごとに差があるとしたらスピード感だった。ところが地政学的に分散化し手法論が変わってきている。日本の自動車産業はかなり輸出が多いので、偏在するエネルギー政策に対してマルチパスウェイが適切なカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)のソリューションであり、それを政策に反映してもらえる、ある種の渉外活動が必要な時代になった」

―自動車産業を維持する上で日本の労働人口減少問題にどう対応するか

「少子化もあるし労働人口が減っていくのは間違いない。同時にAIが社会基盤に浸透していくと要求されるスキルマップが変わっていく。(日常的な作業や管理に関連する)オペレーショナルな領域の仕事がどんどんAIに置き換わった時に、スキルベースで見た時の人口減少はより深刻になる。(20年後に)20%労働人口が減るとなると20%生産性を向上させないと今の生産能力を維持できない。間違いなく自動車産業としても本気でAI基盤の構築を考えないといけない。AIは自動車産業に3つの改革をもたらすと思っていて、その一つは自動運転だ。日本の交通システムは世界で最も安全・安心であり、この環境を維持して本気で交通事故ゼロを目指す。これは日本にしかできない」

―新7つの課題でも人材基盤の強化を掲げている

「一人ひとりが夢を持って働ける産業じゃないと、産業そのもののエンゲージメント(愛着心)が下がってくる。頑張った分だけ手応えがあればまた頑張れる。皆が頑張れる環境をつくるのが自工会。(自動車産業に従事する)550万人のリアルを見てそれを行動につなげていきたい。自動車産業ほど雇用を守っている産業はない。これは春闘でも言っているが、賃上げも大事だが一番大事なのは雇用。安定した雇用を続けるための努力が今、必要だ」

(編集委員・福井 友則、中村 俊甫)

対象者 自動車業界

日刊自動車新聞5月7日掲載