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2026年3月4日

人事

自動車メーカーで相次ぐ「実務派」のトップ就任 不確実性に対して守りの経営へ

外部環境の不確実性が高まる中、自動車メーカー各社が経営体制を見直している。トヨタ自動車と三菱自動車、いすゞ自動車が相次いで社長交代を決めた。社長就任予定のトヨタの近健太執行役員、三菱自の岸浦恵介執行役員、いすゞの山口真宏専務執行役員に共通するのは、財務や経営企画、海外事業などで経験を積んだ「実務派」が抜擢された点だ。足元では米国での電気自動車(EV)普及シナリオが狂い、日中関係の悪化からサプライチェーン(供給網)の地政学的リスクが高まっている。各社は不確実性に耐えうる強靭(きょうじん)な企業基盤構築に向けて守りの体制へと舵を切る。

トヨタ社長に就く近執行役員は最高財務責任者(CFO)を担う。経理部門出身で、豊田章男社長(当時)の秘書も務めた。子会社のウーブン・バイ・トヨタでもCFOに就き、トヨタ不動産では豊田自動織機の株式非公開化を担う「トヨタの金庫番」だ。主力の米国市場でトランプ関税の影響が業績を圧迫する中、近執行役員は「損益分岐台数を引き下げ、悪い時に踏ん張れる構造をつくらないといけない」と力を込める。

三菱自の岸浦執行役員は、米国やタイなど海外事業に携わってきた。地政学的リスクが表面化する中で、政治動向を冷静に分析し、最適解を打ち出す手腕に期待がかかる。岸浦氏は最高執行責任者(COO)として実務を担当する一方、加藤隆雄社長は最高経営責任者(CEO)として残留し、日産自動車とホンダとの提携も含めた中長期的な経営のかじ取りを担う。

いすゞの山口専務は、LCV(小型商用車)事業など主に営業畑を歩んできた。2023年にはグループCFOに就き、いすゞのスポークスマンとして記者会見に臨む姿がトヨタの近氏と重なる。南真介社長が「多様な意見を集約して会社を進める」と評する、まさに「調整型」の人だ。

山口専務は自身の強みについて「カリスマ性がないこと」と自虐する。次期社長の3氏は一見すると地味で派手さがない点で共通するが、状況に応じて最適解を導き出して実利を得る柔軟性を備えていると言える。

トップダウン型のリーダーが掲げる大きな事業目標は、不確実性が高い市場環境においてはリスクとなる可能性もある。ホンダの三部敏宏社長は21年、日本で初めてエンジン車の販売を40年に全廃する目標を打ち出したが、米国の政策変更を読み切れず、結果的にはEVシフトが事業の足かせとなっている。

トヨタの佐藤恒治社長はトップ人事について「トヨタと産業の未来のための経営チームのフォーメーションチェンジ」だと強調し、3年前に佐藤社長が打ち出した「チーム経営」は近次期社長も継承する方針だ。近氏も「一人のスーパーマンではなく、皆で良くしていく経営は変わらない」と話す。

米トランプ政権のような予測不能な外部圧力に対して、強い個性を持つリーダーは真っ向から対立したり極端な譲歩を迫られるリスクがある。正解がない時代においては、大きな目標を掲げるビジョン経営ではなく、商品や技術、収益などのレイヤー(階層)で最適解を見出し、水面下でリスクを回避する「低重心な経営」が求められる。自動車メーカーのトップ人事はこうした時代背景を反映したものと言えそうだ。

左から、トヨタの近健太氏、三菱自の岸浦恵介氏、いすゞの山口真宏氏

カテゴリー 人事
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞 3月4日掲載