―会長就任の抱負は
「片山正則前会長(いすゞ自動車会長)からバトンを引き継いで身の引き締まる思い。自動車業界は激動の時代に入っている。(自工会の)いろいろな取り組みの結果を出していかないといけない。そういう意味で今の自工会を引っ張っていくという役割は非常に責任が重いと思う。だからこそ行動で返していく。いろいろ議論するよりもまず行動して現場で汗をかいていく」
―2026年のキーワードは
「『国際競争力』。ブロック経済が進んでいく中、自動車産業はどちらかというとグローバルスタンダードなものを世界的に展開していくビジネスモデルだった。ただ、エネルギー環境や政治経済の状況が地域ごとに大きく変化する中で、いかに地域への対応をしていくか。かつその中で日本の勝ち筋をどう見つけていくか。単にコスト競争に陥るのではなくて、いかに日本の自動車産業の活性化を促しながらサステナブルなビジネスモデルにしていくかが大事。世界の中で日本の自動車産業がしっかりと役割を果たせるよう頑張っていきたい」
―去年は米国の追加関税の影響が大きかった。今年はどうなるか
「関税については日本政府並びに関係省庁の皆さんのご尽力によって妥結をみた。税率そのものはいったん跳ね上がったところからみれば、ある一定のところに収まったが、この数字自体は事業の前提として厳しいということに変わりはない。さらなる努力を政府にもお願いしたいし、我々もそれにしっかりついていくべく努力をしなければならない」
―26年の取り組みとして「新7つの課題」を策定した
「新7つの課題は正副会長で議論を繰り返して、これまで取り組んできた7つの課題に対して現状を見た時にどこにより注力していくべきかということで決めた。短期間に結果を出していかなければならない重要課題について、改めて世界環境が変わっていく中でテーマに対するプライオリティ付けをもう1回行ったということだ。今回、サプライチェーン(供給網)あるいは重要資源について経済安全保障の観点からも非常に短期的に結果を出していかなければならない課題が多くある。そこに対していかに協調を生んでいくかがすごく大事で、個社で対応できるところは限界がある。特に重要資源の安定調達は、ティア(階層)の深いところに取引があるわけで、そうするとOEM(自動車メーカー)のところで把握できている情報レベルにも大分差がある。これらのことをしっかりと『見える化』をして、業界としてセキュア(安全)にすることを短期間に進めていかないといけない。これまでの系列だとか地域の属性に依存したサプライチェーンで本当に日本が世界で戦っていけるのか。これを問い直したい。ある意味、スケールを取っていくような大きな連携を生んでいくこと、それでちゃんと国際競争に打ち勝っていくことが大事だ。サプライチェーンの強靭化に対して少しスケールの視点を入れながら取り組んでいく」
―米国のベネズエラ攻撃をはじめ地政学リスクをどうみるか
「まずは邦人の安全確保が第一にあるべきだ。我々もしっかりと情報を取って対応していきたい。それとはまた違った視点で自動車産業についてどのように見ているのかというと、ブロック経済がどんどん進展していく中でいろいろなリスクは当然大きくなっている。災害リスクだったり、供給力に対してしっかりと構えを取っていかないといけない。国の政策の中でも、国内の投資に対するいろいろな配慮をいただいている。こういったようなことをしっかりと生かしながら生産あるいは販売の供給力をしっかり保っていく取り組みを進めていくべき。それが最終的には世界でいろいろなリスクが起きた時に対応していくための原動力になる」
―昨年末の税制大綱の受け止めは
「大原則として『簡素化』『負担軽減』『目的の明確化』という3つの柱に沿って、これからもブレずに活動していきたい。ただ、税制改正大綱、あるいは直近のいろいろな取り組みの中で環境性能割に対して廃止の方向性を示してもらえたこと、あるいは自動車税に対する今後の議論の道筋を示してもらえたことについて、我々も積極的にそこに関わりながら3つの軸を徹底していきたいと思う」
―20年に「自工会理事は現役社長が務めるものだと決めた」が、その意味をどう考えるか
「肩書きではないと思っている。私自身が社長、あるいはCEO(最高経営責任者)だから自工会の会長をやれるということではなく、なぜ社長がやることで合意形成をしたのかをもう1回しっかり考えなければいけない。要は事業への直結性だ。自工会で決めたことに対して(各社が)実行に移せるかどうかが非常に大事で、話し合いだけしていてもしょうがない。いかに実践するか。実践を考えた時に、CEOが自工会に関わっていることが事業展開に向けた直接性の裏付けになる。肩書きというよりはいかに事業に直結させていくかということを大事にしなくてはならない。一方で、自工会会長として協調領域を作っていこうとした時に果たして本当にトヨタの社長という肩書きはどうなのか、ということも一方であると思う。自工会は14社が多様性を持って存在している業界団体だ。多様性が力にならないといけない。多様性をスポイルして同調させていくような会長ではなく、いかにその多様性が強みになるかということに尽力すべきだと思っていて、トヨタの社長である私はポジティブの面とネガティブの面を両方持っていると思う」
―すそ野が広い自動車産業において賃上げの流れをいかにティアの深いところに浸透させるか
「ズバリ『適正取引』と『価格反映』に尽きる。OEMはサプライチェーン全体に波及するようないろいろな総合的な投資をしている。初年度はなかなか水を流しても流れなかった。実効性に不安があるからだが、これを継続していくと『そういう環境なんだ』ということが認知されて、少しずつ動きが見えてくる。ただ、これはサステナブルではない。ティアの深いところでしっかりと賃上げにつなげるためのエネルギーをもたらすためには、間違いなく適正に取引をして、いろいろなコスト上昇分を価格に反映して、それを確実に実行する。リアルなビジネスの中で健全な環境をつくっていって、ティアの深いところまでエネルギーを届けていく。これに尽きる。自工会と部工会は本当に相互連携がすごく進んでいて、定期的な議論もしている。実質賃金に対して物価上昇を超えるレベルの賃上げをしようというのは、経済原理として理解した上で、これは単純化しすぎだと思っている。今の労働集約型の産業が、これからもサステナブルな産業であり続けるためには、単純な賃金の話で終わらせてはいけないと思う。労働環境だとかいろいろな人への総合投資が行われて、『雇用』と『成長』と『分配』がバランスしないといけない。自動車産業はこの短期的な動きの前から安定的に雇用を守りながら賃上げを続けている。労使の話し合いが最も大切にすべきことは、労使がどうやって会社の発展、従業員の幸せを願ってお互いに努力していくか。そういうことを徹底的に話し合うところが本質なはず。それを『何%の賃上げ』と単純化することに違和感を持っている。(自動車産業には)組合が存在しない会社が7割を占める。そこまで含めて賃金を上げていくためには、単純化された『大企業の賃上げがどうなるか』ということと全く違う次元で深い議論がいるはず。適正取引で体力をつけて、自分たちがちゃんとそれに報いる賃金を払えるようなビジネス環境を作っていくということが1番大事。そうなっていくように努力したい」
―物流の問題について。26年の規制が厳格化される。どのように物流を守っていくか
「物流業界に限らず自動車産業に等しく言えることは、自ら生産性を上げないと戦っていけないということ。生産性を上げていく努力はそれぞれの会社に強く求められる。物流業界については、今までの古い慣習に流されないようにルールを周知、認知、遵守するということをいかに業界全体で徹底していくかということが大事だ。物流の現場に行くとドライバーの荷役作業と荷役待ちが多い。積載率もかなり低い。相互に物流を融通し合い、連携し合う共同物流をOEMの責任でどんどんやらなくてはいけない。幸いいろいろな企業と地域がある程度紐づいているので、その地域にどの会社のトラックがどの荷物を載せていくのかをDX(デジタルトランスフォーメーション)でやらないといけない。今はどの積み荷がどのトラックに載ってどこを走っているのかわからない。これは情報の秘匿性があるのでそういう情報が共有できない。そこをブレイクスルーしてデータで見える化をすればやれる物流改善はまだまだある。荷役作業の効率化もどこにどの荷を積むかももっとやれる。物流改善を我々も支援していかないといけないし、例えばトラックのサイズによっては規制に引っかかって通れない運行ルートとかがいっぱいある。国と連携を取りながら規制緩和をお願いしつつ物流効率が最適化できる配送ルートももっとやれると思う」
―国際競争力について日本のものづくりの強みとして現場のデータ、人工知能(AI)、ロボティクスを挙げていたが勝ち筋は
「昨今、ロボティクスの議論がいろいろなところで活発になされていて、ものづくりの景色を変えると言われているが、そんなに簡単なものではないと思っている。ヒューマノイドがなんとなく人間的な動きをする。これは決してものづくりの直接的な支援につながることではない。ものづくりをそんななめてもらっては困る。どれだけ品質を保証する作業を現場で一人一人がやっているのか、こういうことが暗黙知の塊だ。いわゆるヒューマノイドではなくてフィジカルAIとして現場にロボティクスを入れていこうとした時に、1番大事なのはハードじゃなくてソフト。データだ。AIは結局食べているデータで育つわけで、どんなデータを食べているかで育ち方が変わる。日本のものづくりの現場にはものすごく尊い暗黙知がたくさんある。日本の自動車産業の各会社のPBR(株価純資産倍率)が上がっていかないのは、評価軸が台数の一辺倒になっているからだ。『台数の成長=自動車産業の成長』という方程式を変えたい。我々の勝ち筋は、今ここにある日本のものづくりの無形の価値をデータ化してAIに食わせようと。同じような技術だったとしても日本でしか食べられないデータがある。そのデータを食べて育ったフィジカルAIは日本のハイクオリティなものづくりを将来変えていってくれるはずだ」
―日本のクルマの良さをどう伝えていくか。また足らないところは
「クルマの本質的な価値は絶対に失われないと思っている。心に訴えかけるものがあって楽しいとか、感動するとか。そういうような人間の感性に訴えかけるような価値はクルマのみならずいろんなものにある。例えばEVはカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)のソリューションのひとつだが、EVのトランジッション(転換)が遅れているのは『事業転換が遅れている』という方程式で物事が見られている。本質的な価値はクルマが人をワクワクさせるとか、所有することに喜びがあるというところなので、そこにつながる価値をどうやって日本のクルマで作っていくかが大事。だからEVも当初の競争は、バッテリーの容量と出力の2軸で評価するような論調があった。ただ、お客様はそこにいない。また、資源の循環をどうやって考えるか。EVの普及率は日本で2%を切り、1番進んでいる中国でも半分もいっていない。それぐらいの普及率になっているのは過剰なEVトランジションをあおるような投機的な動きといった政策誘導的なものではなくて、お客様を見ないといけない。お客様の心が動くEVを作らないといけない。だんだんと日本のメーカーはそれができるようになってきていると思う。そういう価値を見失わないようにしながらちゃんとカーボンニュートラルでもある。こういうものづくりを徹底する。あとはハイクオリティであるということ。本物の良さ。しっかりと安全安心が担保されて乗れること。その当たり前を守っていくことが1番大事で、その努力を日本の各メーカーはやってきている。かつ、昨今は各社がブランドアイデンティティを大事にしていると思う。多様性が強みになる自動車産業を目指していかないといけない」
―米国からの逆輸入車を検討する動きがある。国内メーカーにとってどういう意義があるか
「トヨタは方針を決めて公表しているし、報道ベースでは他にもあると聞いている。逆輸入をすることそのものに大きな経済的意味があるということではなくて、大事なのは開かれた自由な貿易環境をいかに作るかということ。米国は独自の規格を持っているのでアメリカで販売している車をそのまま日本に持ってきて受け入れるためには認証の見直しをしていく必要がある。日本は国連法規のWP29の枠組みにおいては副議長国。世界においていわゆるグローバル基準を作っていくためのリード国である。米国と中国は国連法規の外側にあるが、国連法規が目指しているものは、自動車産業全体の安定的な発展のためにはグローバルの規格が統一されていくべきだろうと。そのために我々もしっかり努力をしないといけない。米国産車を日本に入れられるようなクルマの作り方をこれからもしっかり考えていかないといけないだろうし、そういう規制緩和を今後、働きかけていく必要もある。グローバルな規格の将来に向けて、良い方向につなげていければ」
―自工会人事の先行方法について、トヨタのリーダーシップを求められることの受け止めは
「副会長として次期会長会社についてどうするかは、トヨタありきの議論ではなかった。今、自動車産業がどのような課題に取り組むべきか。それを先に決めて、そこから誰がリード役をやるべきかを決めようというプロセスだった。みんなで課題を議論して整理して最後にまとめたのが新7つの課題。グローバルに取り組んでいかなければいけない課題なのと、多方面にやっぱりテーマがあり、だからトヨタだっていうことを決め打ちするのではなくてむしろ私が言っているのは『オールハンズ』。船の世界では、嵐に出会った時の船長の掛け声に『オールハンズ』というものがある。要は、甲板に出て全員でこの嵐を乗り切ろうということ。そのオールハンズの掛け声がかけられる自工会に今はなっていると思う。なので、正直、誰がリーダーをやってもオールハンズ。多様性が強みになっていく自工会を目指さないといけない」
―日本のEV普及が遅れている。自工会会長としてEV戦略をどう見るか
「根っこにあるのはエネルギーセキュリティーの問題だ。今の日本のエネルギー環境の中で本当にどれぐらいのトランジションスピードでEVを普及させていくべきなのか、これは慎重に考える必要がある。エネルギーセキュリティーが原点にあって、モビリティの進化がある。これまでは石油が基幹エネルギーだったから内燃機関がそのエネルギーに寄り添って発展してきた。今、エネルギーそのものがトランジションをしようとしているので、多様なエネルギーの可能性がある中では多様なソリューションを持つべきである。これがマルチパスウェイ(全方位)の前提にある考え方。EVだけに固執するつもりもないし、カーボンニュートラルへの道筋はいろいろある。かつ現実的に二酸化炭素(CO2)を減らしていくことの方が大事で、目の前にあるやれる努力をどんどんやりながら実行力を上げていく。水素の取り組みも非常に重要だ。一方でEVもソリューションの一つであるのは間違いなくて、ある一定量のEVは我々もしっかりと作ってお届けしていかないといけない。今までのEVトランジションというのは、やっぱり政策誘導的なところが強くてそこにお客様はいない。各国の販売の状況をみれば分かるが、政策の転換点と売れ行きの転換点が一致している。これは健全なビジネスにならない。まずはお客様にしっかりと向き合う。お客様の価値を損なわないようにどんなEVだったら乗ってもらえるのかを見極めることが大事。クルマの本質的価値を失った、ただ電動化された乗り物にお客様は心を動かさない。(EV普及には)あと二つやらないといけない。一つはインフラ。当たり前のように近くにガソリンスタンドがあるからガソリン車を心配せず買える。当たり前のように充電ができる環境がなかりせばEVの普及はない。だからインフラをしっかり考えていく。インフラがなかなか思うように進んでないのがEVトランジションを少しスロースピードにもさせている要因の一つだ。もう一つは、サステナビリティ。バッテリーに使っている希少資源をしっかり循環させる仕組みを作っていかないと、あるいはバッテリーそのものがコストの半分を占めるような原価構成になるようなものをそのままにしておいてビジネスがサステナブルになるわけがない。特に電池のサーキュラー(循環)のところは、業界を挙げてやっていく。これは自工会の7つの課題の中でも取り上げていく話だ。そういう複合的な政策あるいは、企業の努力が重なっていって初めて市場ができてくる。もちろんメーカーとしては乗るべき価値のある、気持ちのいいEVを作っていかないといけない」












