2025年12月23日
連載「岐路に立つ自動車税制」(1)山が動いた 半世紀の〝暫定〟に終止符 車体/燃料税制に変化の兆し 論点の多く先送り 「理念」実現するか
車体や燃料に関する税制が変わり始めた。燃料では、半世紀にも及ぶ〝暫定〟税率がようやく終わり、車体では旧「自動車取得税」の性格を残す自動車税環境性能割が廃止される。ただ、減収分の埋め合わせや、パワートレインをまたぐ公平な課税のあり方など、論点の多くは先送りされた。自動車業界は引き続き、臨戦態勢だ。
暫定税率の始まりは終戦直後まで遡(さかのぼ)る。1953年、故・田中角栄首相が主導し、自動車に関係する税金の大半を道路整備に充てる「道路特定財源制度」が創設された。高度経済成長下、道路整備で恩恵を受けるのは自動車ユーザーという「受益者負担」の理屈で、車体・燃料とも課税が強化されていく。公共性を理由とした事業用車(緑ナンバー)の税優遇に伴い、結果的に自家用車ユーザーの重税感が際立つ制度にもなった。それでも、この制度のおかげで約120万キロメートルに及ぶ道路網が整い、モータリゼーション(自動車の大衆化)を支えた。
本来は、道路整備にメドがついた段階で制度を廃止すべきだったが、国土交通省は「道路整備はまだ足りない」と繰り返す一方、公共投資抑制の煽(あお)りで余った税収を地下鉄整備や公務員宿舎の建設、果てはマッサージ機や野球グローブ購入にまで浪費し、世間から批判を浴びた。特定財源制度がようやく廃止されたのは08年度末。いわゆる小泉改革によってだ。
しかし、制度廃止後も暫定税率はしぶとく生き残り、揮発油(ガソリン)の場合、1リットル当たり28.7円の本則税率に25.1円が上乗せされ、合計53.8円が課せられた。「道路特定財源制度の廃止で課税根拠を失った」と自動車業界は長年、暫定税率の廃止を求めてきたが、自民税制調査会(税調)や財務省は一顧だにせず、民主党政権下でも「当分の間税率」と名前が変わっただけだ。
廃止のきっかけとなったのはまず、ロシアによるウクライナ侵攻だ。ロシア産原油の供給が滞り、世界的に油価が急騰。政府は約8兆円の税金を投入し、ガソリン価格を下げる「燃料油価格激変緩和対策事業(激変緩和措置)」に踏み切ったが、野党側は法制化されていた揮発油税の課税停止措置(トリガー条項)の発動を求めた。この時は不発に終わったが、この時点で暫定税率が争点に浮上した。
そして参院選、自民総裁選を経て、廃止への流れが強まっていく。野党に目配りせざるを得ない高市早苗首相は所信表明演説で「今国会での(ガソリン暫定税率の)廃止法案の成立を期す」と発言し、党税調の〝ラスボス〟と呼ばれた宮沢洋一氏に代わり小野寺五典氏を会長に据えた。10月末日には与野党6党で年内に暫定税率を廃止することで合意。自動車業界関係者は「山が動いた瞬間だった」と振り返る。
ただ、暫定税率の廃止に伴い、1兆5千億円の税収が失われる。賃上げ促進税制の見直しなどで浮いた税収を充てる方針だが、依然として足りない。与党の税制改正大綱は、財源確保の「留意事項」として「道路関連インフラ保全の重要性」を挙げる。特定財源の廃止以降も政府・与党は「受益者負担論」を堅持しており、自動車税環境性能割の廃止分も含め、業界関係者は「車体(課税)に付け替えが求められる可能性はあり得る」と身構える。
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今回の税制改正議論では、電気自動車(EV)への増税も決まった。「財務省はEVから(税金を)取りたくて仕方なかったんだろう」と経済産業省。大綱にある「日本の自動車戦略やインフラ整備の長期展望等を踏まえる」「50年カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)の実現に積極的に貢献する」という理念に沿った税制は実現するのか。
日刊自動車新聞12月23日掲載











