
ホンダの三部敏宏社長
ホンダの三部敏宏社長は4日、東京大学本郷地区キャンパス(東京都文京区)で「大変革期のモビリティ業界にある、ホンダの夢と挑戦」をテーマに講演した。創業時からの歴史のほか、次世代自動車や宇宙の取り組みまで幅広く紹介した。
三部社長はまず、ビジネスや商品、技術で「『他社との差ではなく、違いを生み出せ』と言われ続けてきた。常に求められているのは世界一や世界初(の技術やアイデア)だ」と振り返り「いったん負けても、もう一度、どうひっくり返すかが大事だ」と力説。学生に対し「社会人になると負けることがある。諦めずに何としてもひっくり返しにいくことだ。その時は『ホンダの三部がこんなことを言っていたな』と少しでも思い出してもらえれば」と語った。
学生との主なやりとりは次の通り。
―企業のアイデンティティーを保ちながら時代の変化に対応する難しさは
「歴史的にホンダはエンジン技術を売りにしてきた。社長に就任してすぐ『エンジンを止めよう』と言ったら、社内外に大きなインパクトがあり『何言ってんだ』『気が狂ったのか』と言われた。エンジンを武器にしてきたホンダだからこそ、早くやらないとズルズルと引きずってしまう。技術はいつか枯れる。守るべきものは技術ではなく考え方や思想だ」
―技術がないところに新たなものを生み出すには
「新入社員の頃『目標設定に8割の力を使え』と言われた。ただ目標が低いと、一瞬は勝つことができても、ひっくり返される。届こうが届くまいが『ここまでいかないと』という目標を掲げる。これが欠けていると、グダグダになって『せっかく頑張ったのに』という思いをする。企業も大学も同じだ。自分のテーマが胸を張って高い水準になっているか、自問自答してほしい」
―モチベーションに差がある中で、チームの調和をどのように保っているか
「100人の技術者がいれば100通りの考え方がある。目標を決める時にズレがあればうまくいかない。互いに納得するまで議論する。腹落ちして『こうしよう』と決める。『(考えが)違うから仕方ない』と思って放っておいてはいけない。納得するまでプロジェクトは始めないくらいで良い」
―うまくいかない事業もあったか
「失敗はある。技術がないところに参入しているので、やってみないと分からない。ホンダの努力だけでうまくいくのではなく、環境にも大きく影響される。燃料電池は40年以上やっている。電池のコストは下がり、耐久性は上がっているが、水素自体が計画よりも価格が下がらず事業として広がらない。夢だけでは生きていけない。周辺環境と(技術が)ぴったり合うと大きなビジネスになるが、結局はやってみないと分からない。『10個やって1個当たれば良い』くらいの考えだ。新しい価値を生み出すことは会社の価値だ。経営トップがリスクを取らない限り新しいことはできない。挑戦は継続していきたい」
―電気自動車(EV)や自動運転でのホンダの勝機は
「(EVなどで)特に進んでいるのは中国で、大きく差が付いたのは(新型コロナウイルスの)パンデミック期間だ。彼らは休まずに開発を続け、日本や欧米メーカーは活動が停止状態だった。そこから大きな差となった。中国は24時間開発を回している。生産コストでも抜群の競争力だ。勝つには産業全体で取り組まないといけない」
―三部社長の夢は
「陸・海・空で、イメージしてきたようなモビリティでホンダのロゴが見られたらいいなと思う。時間はかかるが、今のうちから仕込まないと10、20年後に花は開かない」











