2025年12月12日
「GR GT」で挑むトヨタのクルマづくり 持続可能なスポーツカー事業へ GT3でレースカービジネスも
トヨタ自動車が世界初公開した「GR GT」は、2010年に発売したレクサス「LFA」以来途絶えていたスーパースポーツカーの系譜を継ぐ最上級モデルだ。台数限定ではなくカタログモデルとしての販売を目指すほか、市販レース車両「GR GT3」では、部品供給を含めたレース関連のビジネスモデルも構築する。台数が見込めないスポーツカーは採算性の確保が難しい。一方で、開発を通じた技術や技能の進化・伝承という役割もある。トヨタはGR GTでスポーツカー事業の継続・拡大に挑む。
GR GT(左)とGR GT3
スポーツカーを事業として成立させるのは簡単なことではない。市場規模が小さく販売台数も限られ、年々厳しくなる環境規制への対応なども求められるためだ。このためホンダ「NSX」や日産自動車「GT-R」など、開発や販売を止める事例も少なくない。その中でトヨタは、少ない台数でも事業性を成立させるために「86」をスバルと協業し、「スープラ」は独BMWと共同開発し、オーストリアのマグナ・シュタイヤーで生産して量産につなげてきた。
GR GTの車両価格は、LFAの3750万円レベル以上になるとみられている。また、500台限定だったLFAとは異なり、カタログモデルとしての販売を目指すという。「GRヤリス」などと同様に進化型を投入し、改良を続けて販売も継続していく方針だ。5日に行われたワールドプレミアイベントでも、GR GTの開発ドライバーを務めた豊田大輔氏は「LFAは500台限定で多くの方に車を届けられなかった悔しさがあったと思う。その悔しさをこの車で晴らしていきたい」と述べた。
一方で、採算面でのハードルは低くない。高い性能を実現するために車両コストはかさみ、搭載するV型8気筒エンジンはGR GTのために新開発した。高コストな車両設計と、販売台数や価格とのバランスなど課題は多い。
その中で、GR GTの事業性を高めるための施策の一つが、GR GT3の存在だ。市販車ベースのレース車両規格「GT3」に準拠する車両を用意し、レースを通じてGR GTのブランドイメージを高めるとともに、モータースポーツを起点としたビジネスモデルを構築する狙いだ。
GT3カテゴリーの特徴は、自動車メーカーが製作した車両をレースチームや個人オーナーに販売し、スペア部品やメンテナンス、エンジニアリングサービスなども提供する。いわゆる「カスタマーサポート」を提供することで、その対価を得る仕組みだ。GT3はポルシェやメルセデスAMG、フェラーリ、フォード・モーターなど欧米メーカーが展開する。トヨタも高価格で高性能な市販車とGT3ビジネスをセットで展開し、ブランド価値向上と、持続的なレース活動を両立する。
GT3ビジネスの先例がラリーカーだ。「GRヤリス」をベースに開発した市販ラリーカー「GRヤリス ラリー2」の販売は好調。GRカンパニーの高橋智也プレジデントは「グローバルでいろいろなエントラントに使っていただき、引き合いは強い。(販売)台数が増え、投資回収の目途も立っている」という。実際にモータースポーツでの活躍はGRブランド車の販売に直結しており、欧米やアジアで人気が高まっている。トヨタは需要拡大を受け、26年から英国の生産子会社であるトヨタ・モーター・マニュファクチャリング・UK(TMUK)で「GRカローラ」を生産する。
スポーツカーの役割は、ビジネスだけにとどまらない。トヨタはスポーツカー開発を通じて、技術や人材を鍛え上げ、未来へと継承するという。GR GTの発表に当たり「2000GT」からLFA、GR GTへと続く最上級スポーツカーの系譜と、社殿や調度品を一定年数で新しくする神社の伝統行事「式年遷宮」に重ね合わせた。豊田章男会長は発表イベントで「今のトヨタには私と同じ思いで車を作ってくれる仲間がたくさんいる。仲間たちと車づくりをしながら〝(車づくりの)秘伝のタレ〟を未来に残していきたい」と語った。
また、今回のイベントは、モビリティのテストコースと位置付ける「ウーブン・シティ」(静岡県裾野市)内にあるインベンターガレージで開いた。トヨタ自動車東日本(東富士工場)のプレス工場建屋を利用した同ガレージは、ものづくりの現場から製品・サービスの開発拠点へと生まれ変わった施設だ。GR GTの発表で、将来にわたりスポーツカーづくりを継承していく意気込みを示した。

カスタマーサポートはGT3ビジネスの重要な収益源(写真はサポートトラック)
| 対象者 | 一般,自動車業界 |
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日刊自動車新聞12月12日掲載













