INFORMATIONクルマの情報館

自動車産業インフォメーション

2025年12月11日

連載「新章 チームスズキの挑戦」第4部 未来への航路(1)EV元年

 2025年度はスズキにとっての「電気自動車(EV)元年」となる。初のEV(登録車)投入を鈴木俊宏社長は「大きなギャンブルだ」と話す。EVは想定より普及に時間がかかっているが、電動化に向けた世界の大きな流れはかわらない。次はいよいよ軽のEVだ。トップメーカーとして準備が着々と進む。

 スズキの役員が集まり、開発中のEVの試乗会が開かれた。5月のことだ。「出来はかなり良い」。ある役員は自信を示す。

 EVはアクセルを踏むと即座に反応する。逆にそれを怖く感じる消費者もいる。新軽EVはアクセルになめらかに反応する出来に仕上がったという。26年度内に投入する。

 軽EVは、22年に日産自動車と三菱自動車が、25年9月にホンダが発売している。

 スズキは「最後発」だ。しかし、鈴木俊宏社長は「遅れているわけではない」と話す。26年1月発売のEV「eビターラ」で技術を磨いてきたからだ。性能的にも価格的にも「ちょうどいい軽EV」を出せるという自信が漂う。

 新軽EVは電池やeアクスルの調達先は公表されていない。実用性の検証に入っているEVの軽トラックでは、自社開発の軽用eアクスルを採用。電池はスズキが筆頭株主のエリーパワー(吉田博一会長兼CEO、東京都品川区)製だ。航続距離は非公表だが、農家が日常で使う走行分は確保しているという。

 軽EVは給油所の閉鎖が進む地方で普及するとみられている。戸建てが多く、充電設備を自宅に置くことができる。俊宏社長は「会社の特性を生かせるチャンスでもある」と話す。地方の隅々まで約7万店の業飯店網を持つ強みがある。

 現在のEVの開発は、自社開発とトヨタグループとの連携の2軸で進めている。「eビターラ」のeアクスルは「ブルーイーネクサス」製を採用する。デンソーとアイシン、トヨタ自動車が共同出資する企業だ。トヨタ、ダイハツ工業と3社で共同開発している軽商用EVも同様だ。

 電池は内製と外部調達で進める。インド・グジャラート工場の隣接地にEV電池用工場を建設中で、26年稼働予定だ。外部調達ではエリーパワーや中国メーカーになるとみられる。ある役員はエリーパワーについて「国産で品質も安心で、独自技術で電池は(衝撃など)何があっても燃えない」と評価する。

 「eビターラ」は中国・比亜迪(BYD)傘下のフィンドリームズバッテリー製のリン酸鉄リチウム(LFP)電池だ。多方からの調達はリスク分散の意味もある。

 スズキが2年前に発表した、30年度を見据えた成長戦略では、各市場でEV普及が伸びると想定していたが25年2月の新中計で修正した。インドと欧州は投入モデル数を減らした。インドでのEV販売(24年度)は11万台で全体の2~3%にとどまる。

 インドで普及する圧縮天然ガス(CNG)車、圧縮バイオメタンガス(CBG)車、ハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)も用意する。電動化などに30年度までに1兆3500億円を投じる。全方位対応は、現時点で解が見つからない裏返しでもある。

 

EV軽トラに搭載したエリーパワー製の電池

 

 

 

 

 

 

 

対象者 自動車業界

日刊自動車新聞12月11日掲載