2025年12月9日
日産「ルークス」、母親目線で機能充実 子育て世代へアピール、国内市場巻き返しへ
日産自動車が約5年ぶりに全面改良した軽自動車「ルークス」は、受注台数が2カ月あまりで約2万2千台となった。月販1万台を超えるようなモデルが少ない日産車の中で好調な滑り出しとなり、系列ディーラーを含めて低迷が続いている国内販売の巻き返しへの機運が生まれつつある。ただ、軽の商談は「短期決戦」になりやすく、事前に顧客の注目を集めるためのマーケティング施策に力を入れる必要がある。車酔いを防ぐ車両設計や女性目線での使いやすさなど、子育て世代に響くこだわりを伝えるために、試乗機会の創出にも力を入れている。
12月上旬、記者も新型ルークスを公道で試乗した。乗り込んでまず感じたのは、ステアリングの触り心地だ。微細な凹凸がある生地を使っているといい、手になじんだ。死角になりがちな車両右前やボンネット下の様子まで車載カメラが捉えるなど、容易に安全を確認しながら走り出せる。先進運転支援システム(ADAS)の充実に加え、ドライバーが手に触れるところも使い勝手を高めており、ターゲットとしている子育て層への配慮を感じた。
「酔いにくいクルマ」を目指したことも、子どもを意識した車づくりのポイントの一つだ。体が成長過程の子どもは、揺れや急な加減速などで車酔いを起こしやすい。そこで、カヤバと共同開発したダンパーのほか、従来に比べて剛性を2割程度高めたスタビライザーを採用した。運転していても、前後左右に応力が加わったときだけ車体を支え、不快な揺れが抑えられているように感じられた。
開発過程では、複数の女性従業員が「母親目線で評価するプロセスを加えた」(開発担当者)という。ここから得た声を、新型ルークスの設計にフィードバックした。この一つが、後席の子どもの面倒をすぐに見られるよう、運転席側から助手席を倒せるレバーを設けたこと。軽はコスト競争力も求められることから、費用対効果を重視しながら、機能の拡充を検討したという。
ただ、販売拡大に向けた課題も少なくない。国内市場では、「日産が軽を造っていることすら知らない人も結構いる」(開発責任者)のが実情だ。日本自動車工業会(片山正則会長)の調査によると、軽の購入の検討期間は1カ月が最多で、登録車の3カ月と比べて短い。さらに、ユーザーは他銘柄の販売店に入りづらいといった心理的ハードルもある。こうした中で、軽で先行している競合他社のユーザーを獲得するのは容易ではない。まずは日産にも独自の軽があることを広く周知していくことで、代替候補の一つとして認知されるかが課題だ。
加えて、収益力をいかに高めるかもポイントだ。一般的に、軽は登録車よりも利益率が低い。日産はルークスの販売目標を公表していないものの、損益分岐ラインをクリアしていくためには、まとまった台数を売る必要があるとみられる。国内販売担当の杉本全執行職は「各セグメントで存在感を示せば、おのずと全体の台数も上がる」と期待をかける。
ただ、2024年度の軽の販売台数は、ホンダ「N―BOX(エヌボックス)」が21万台超だったのに対し、ルークスは約6万9千台にとどまった。同じ、軽のスーパーハイト型のライバルとも引き離されており、いかに巻き返せるかが課題だ。
そこで、日産では開発部門も販売現場を支える取り組みを進めている。開発責任者らが全国の販売会社を訪れ、新型ルークスの特徴などを伝える活動に力を入れている。企画や開発に込めた思いを販売スタッフに直接説明することで、拡販への機運を高めることが狙いだ。11月から始めたテレビCMの効果も重なり、成果にも現れ始めているという。
ルークスは日産の久々のヒット作となることができるのか。機能面のポテンシャルは十分なだけに、後は新たなユーザーを増やしていく実効性の高い戦略が求められている。経営再建の鍵を握る1台でもあり、今後、どのような実績を示すのか、注目されている。
日刊自動車新聞12月9日掲載











