2025年12月8日
カーボンニュートラル燃料、脱炭素の救世主になり得るか 業界の垣根越えた試行錯誤続く

カーボンニュートラル(CN)燃料の普及に向けた動きが加速している。電気自動車(EV)需要が伸び悩む中、内燃機関を使うハイブリッド車(HV)などの市場拡大も追い風だ。原料の確保や製造コストの高さなど実用化への課題は少なくないが、CN燃料を使えば既存車が出す二酸化炭素(CO2)排出量を実質ゼロとすることになり、環境問題への貢献度は大きい。地球温暖化の防止に不可欠な車の脱炭素化を推進する救世主となり得るか。業界の枠を超えて試行錯誤が続く。

CN燃料は、植物由来の原料を用いて植物が成長過程で吸収するCO2と燃焼で発生するCO2を相殺する仕組み。車用途ではバイオ燃料と合成燃料に大別できる。バイオ燃料は、植物などの有機資源を再生可能エネルギーでバイオエタノールに精製。既存のガソリンに一定程度を混ぜて使用する。一方、合成燃料は、クリーン電力でつくったCO2フリーの水素と、産業活動で排出されるCO2を化学反応させることで製造される人工的な燃料となる。
16億台超の保有車両向けに不可欠
車向け燃料の需要は、中長期的にはEVや燃料電池車(FCV)の本格普及に伴い減少するものの、一定数は残るとみられている。加えて、世界で16億台超と言われる保有車両が排出するCO2を減らすためにも、燃料のカーボンニュートラル化は不可欠な状況にある。
CN燃料は、希望の液体燃料ではあるものの、「まだまだ入口に立ったばかり」とENEOS(エネオス)中央技術研究所主席研究員兼次世代燃料部主席の菅野秀昭氏は指摘する。持続可能なエネルギーとして安定供給するための安全性確保はもとより、経済合理性や環境適合性も求められるからだ。
当面の目標がバイオ燃料の普及だ。今年2月に国がまとめた第7次エネルギー基本計画では、2030年度までにバイオエタノールを10%混ぜた低炭素ガソリン(E10)を、40年度からは同20%混ぜたE20の供給開始を目指す方針が示された。経済産業省は11月25日、E10を先行導入する地域に沖縄本島を選定。湿度の高い環境下で品質管理などを検証し、将来的な全国導入につなげていく。

ラビットの施設。糖化槽(左)と前処理施設(右)
まずはバイオ燃料国産化に向け着々
国産化に向けた動きは着々と進んでいる。22年7月に設立された「次世代グリーンCO2燃料技術研究組合」(raBit=ラビット、中田浩一理事長、福島県大熊町)にはトヨタ自動車やダイハツ工業、スバル、マツダのほか、エネオス、豊田通商など自動車・エネルギー関連企業が参画する。24年11月にバイオエタノール生産研究事業所を建設し、今年2月から地元の非可食植物「ソルガム」を原料にバイオエタノールの製造を始めた。年間6万リットルを生産する。
ラビットの取り組みは、原料の栽培から調達、製造までの工程を国内だけで行う理想的なものだが「コストをはじくのは困難」(中田理事長)なのが実情だ。精製コストは実用化に向けた高いハードルで、石油大手元売りがエタノール生産でシェアの高い米国やブラジルから輸入するのは、事業性を確保するための現実解を探るためだ。
合成燃料は、CN燃料の切り札として期待されている。ガソリンから重油まで多様な燃料をつくり出すことが可能で、液体燃料のため貯蔵や輸送性に優れ、エネルギー密度も高いといった特徴を持つ。既存のインフラ設備も活用できる。第7次エネルギー基本計画では、30年代前半までに商用化を目指す計画となっている。
課題はCO2フリー水素の調達と、CO2回収などにかかるコストの高さだ。日本では水を電気分解してCO2フリー水素を作り出すための再エネ比率が低く、当面は海外から安価な水素を輸入するのが現実的と見られている。CO2回収については、大気中のCO2を回収する「DAC(ダイレクト・エア・キャプチャー)」が究極的な手法だが、大気に含まれるCO2は0.04%に過ぎない。このため製鉄所や火力発電所などから排出される大量のCO2を回収する必要があり、業界横断の仕組みづくりが求められる。
合成燃料をめぐっては、エネオスがグリーンイノベーション基金事業によるパイロットプラントの建設を止めた。開発は継続するものの、背景にコスト高があるのは事実。建設市況の高騰も含め「1リットル当たり数千円、数万円のものしかできない。これを合成燃料として提供すると『合成燃料は高い』と、ある意味ミスリードになってしまう」(菅野主席)という。
CO2を増やさないだけでなく、CO2自体を削減しようとする動きも出始めている。マツダがスーパー耐久シリーズの今季最終戦で試した「CO2回収装置」はその一環となる。微細な穴に分子を吸着する鉱物「ゼオライト」を詰め込んだタンクに、排ガスの一部を引き込み、CO2を吸着させる仕組みだ。同社はCN燃料とCO2回収を組み合わせることで、走るほどにCO2が減少する「カーボンネガティブ」な車社会の実現を目指すという。
川上から川下まで多様な取り組み
CN燃料の実用化には川上産業だけでなく、ガソリンスタンド(給油所)など川下産業の取り組みも不可欠だ。例えば、石油連盟(木藤俊一会長=出光興産会長)はガソリンスタンドのE10対応に必要な設備投資は500万弱~800万円と試算する。地下タンクの清掃や計量器の部材交換などの費用だという。
CN燃料の普及は石油業界だけで実現できるものではなく、「自動車業界との両輪で進める課題」(石油連盟幹部)でもある。課題解決への取り組みは持続可能なモビリティ社会の実現につながり、何より地球温暖化の防止に寄与することになる。
| 対象者 | 自動車業界 |
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日刊自動車新聞12月8日掲載











