2025年11月26日
〈インタビュー〉日産、イヴァン・エスピノーサ社長 「挑むことにこそ価値がある」
日産自動車のトップにイヴァン・エスピノーサ社長が就任して半年が経った。経営の立て直しに向けて完成車工場の統合といった抜本策に踏み切りつつ、モデルラインアップの刷新を急ぐ。経営再建計画の進ちょくから日産が目指すべき将来像までエスピノーサ社長に聞いた。
―追浜工場(神奈川県横須賀市)の車両生産終了を始め、厳しい決断を次々に迫られた。どんな思いで経営に携わっているのか
「『どうして厳しい状況で社長になったのか』とよく聞かれるが、単純に私は日産が好きだからだ。入社して25年近くになり、世界の多くの部門を経験した。商品企画出身だが、メキシコではフリート(法人)販売の責任者を2年ほどやっていた。クルマの販売がどれだけ難しいかも理解しているつもりだ。こうした経験から、プロとして今の自分がいる。私は家庭人であり、日産のおかげで家族も教育を受けられた。多くのことを与えてくれた日産に私は責任があると思うし、愛着もある。別の仕事を見つけるのは簡単だが、それは私ではない」
―経営再建計画の半年間の進ちょくは
「計画通り順調に進んでいる。多くの苦渋の決断を下したが、将来の存続には必要だったと考えている。固定費は今年度末に1500億円の削減を達成しようとしており、26年度の2500億円の目標は過達できると考える。変動費も改善効果は2千億円規模に積み上がっている。研究開発コストも時間あたり20%の削減目標に対して上期は12%まで改善した。自動車事業の資金流動性は合計3兆6千億円分あり、余裕を持って再編を進めることができる」
―国内市場ではブランドが傷み、販売は低迷している
「日本はイメージ面で他国と比べて最も苦労している。社長就任直後は否定的なメディア報道ばかりで、毎朝落ち込んでいた。そのため経営再建策を加速させようと決めた。そして現在は『セカンドギア』に切り替えようとしている。これからは日産が優れたクルマをつくるためにどれだけ愛情を注いでいるのかを示したい」
「販売店との関係性も深めていく。これまで厳しい状況の中、粘り強く頑張っていただいたことに感謝を伝えたい。母国市場は最優先事項の1つであり、多くの商品を投入してできるだけ早い回復を果たしたい。販売会社の方々の懸念材料に耳を傾け、問題にしっかりと対応する。より良い将来のため、物事を変革するのが私の仕事だ」
―サプライヤーとはどんな関係を築きたいか
「『大部屋活動』ではさまざまな改善提案をいただいた。建設的に『ウインウイン』の関係を築き、改善案を共有したい。今後は社内外の一体感と協力関係、心を開く姿勢を持ちながら、新たなやり方に挑戦したい。今こそ変革する時であり、取引先と力を合わせて、日産をより良くしたい」
―経営再建計画ではパワートレインの生産体制も見直す
「最終的には関連会社を含めて事業効率を高める必要がある。ただし、必ずしも大規模なリストラでなくても良いと考える。世界は急速に変化しており、慎重に見極める必要がある。多様なニーズに対し、複数のパワートレインを選択できる体制を整えなければならない」
―就任以来、「ワンチーム」になるための組織風土改革に力を入れている
「例えば従来のコスト削減の議論では、サプライヤーに相談するのではなく、社内の部門間で成果を誰のものにするかを争っていた。そこで、部門別ではなく、会社としての共通目標を設定した。誰が何を達成したかよりも、最終目標に寄与できればそれで良い。お互いに助け合えるようになり、変化が見えている」
「もう1つ、重要なのが経営層と実務層との透明性のあるコミュニケーションだ。従業員が直接、私にメッセージを送れるチャネル『コールミーイヴァン』を作った。1週間に約200件のメッセージが届いており、全て読んでビデオメッセージで答えている」
―新車の開発では期間を30カ月に短縮する目標を掲げている
「スピード感も大きく変わっている。エンジニアは以前、リスクを避けて慎重に考えがちだったが、今は『もっと早く、効率的にできる』と具体的な提案がある。変革のためには、経営層が積極的にサポートするべきだ。『リスクは私が負うので心配せずに提案してほしい。誰も罰しない』と伝えている。仮に結果が32カ月だったとしても、もともとの50カ月からすれば素晴らしい成果だ。挑むことに価値があり、安心して取り組める環境づくりが大切だ」
―米関税や半導体供給問題など環境変化が激しい。経営の強靭化に必要なことは
「まずは自らの改善に集中する必要がある。世界は分刻みで変化し、10年前に比べると世界経済や貿易環境は複雑で混沌としている。自社でできることをしっかり管理し、より強く、早く、スリムな状態になる必要がある。限られたリソースと時間でトラブルや物事に対応できる能力も必要だ。日々、自分自身をより良くし続けることが、厳しい競争の世界に対応できる唯一の方法だと考える」
【記者の目】
「日産の全員が、自分たちの取り組みを誇りに思うべきだ」。この1年の〝炎上〟で沈んだイメージと社内の士気を変えようと、今月、47歳になったばかりの若きリーダーが奮闘している。冷静に自らの言葉で語る説得力、秘める情熱とバイタリティー、強い帰属意識と「クルマ愛」―。日産の新たな可能性が感じられるが、求められるパワートレインからサプライチェーン(供給網)リスクまで、事業環境は刻々と変化する。浮き沈みの激しい経営に終止符を打ち、安定成長への〝トルクバンド〟に日産を持っていけるか。再建の行方を見守っていきたい。
| 対象者 | 一般,自動車業界 |
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日刊自動車新聞 11月26日掲載













