2025年10月27日
揺れ動く欧州市場、内燃機関規制の見直しも EV販売は回復の兆し

ドイツのメルツ首相(写真左)とVWグループのブルーメCEOは
ICE規制に懐疑的だ(IAAモビリティ2025で)
欧州の自動車業界が現実路線を歩み始めている。2035年の内燃機関(ICE)車の販売禁止規定は見直しの機運が高まり、今年5月には企業別平均燃費基準(CAFE)の罰則施行が後ろ倒しされた。ただ、電気自動車(EV)の販売が今年に入って息を吹き返している。充電インフラの整備が進み、補助金が復活する動きもあるからだ。これまでEVは高性能車を中心にもてはやされてきた。車両価格と性能のバランスが求められる実用車で、改めてパワートレインの主導権争いが始まりそうだ。

「欧州委員会に内燃機関車の禁止を撤廃するよう働きかけている」―。ドイツのフリードリヒ・メルツ首相は9月下旬、ICE車販売規制の見直しに向けて動くと表明した。同月開かれた「IAAモビリティ2025」ではフォルクスワーゲン(VW)グループやメルセデス・ベンツ・グループなどメーカー首脳も相次ぎ規制への反対意見を述べた。
背景には、EVの普及遅れや雇用の危機がある。10年前に発覚した「ディーゼル不正」を経て、欧州勢はICEへの開発投資を絞り、EV化に舵を切ったものの、販売は伸び悩み、各社の経営状態は悪化。VWは工場閉鎖こそ回避したものの、30年までにドイツ国内の人員を3万5千人削減する方針だ。
苦しむ欧州の自動車業界に対し、欧州委員会はメーカー各社との対話の場を定期的に設けている。ICE車の販売規制についても各社からの意見を踏まえ、7月からは一般市民の意見も募集している。
「35年までにEVを100%にするのは非現実的だ」(VWグループのオリバー・ブルーメCEO)といった発言が注目されているが、実はEVは今年に入って息を吹き返しつつある。欧州主要31カ国の1~8月のEV販売は153万6千台と、前年同期から26.0%増加している。
要因は主に2つあると言われている。1つ目が価格を抑えたEVの選択肢が増えつつあることだ。販売が好調なVW「ID.4」「ID.3」、ルノー「5」などはいずれも中~小型車だ。
販売増に向けた環境整備も進む。英国では7月中旬からEVの新車購入補助金が3年ぶりに復活した。最大市場のドイツでも、26年に補助金が再導入される可能性が一部で報じられている。
ドイツでは充電インフラの整備も進む。同国の業界団体によると、現在ある約18万4千台の充電器のうち、2万台は今年上期に新設されたという。さらに政府は、26年末までに急速充電スポットを、アウトバーンに計9千カ所整備する計画も掲げている。
刻々と変化する欧州市場の動向は、日本メーカーにも影を落としている。ここ数年は日本勢が得意とするハイブリッド車(HV)を軸に欧州での販売を伸ばしてきたが、今年1~8月の日本メーカー6社の欧州主要31カ国の販売はそろって前年実績に届かなかった。
伸び悩む原因について、三菱自動車の中村達夫代表執行役副社長は「(欧州勢の中には)米国で稼げない分、挽回しようと値引きしている例もある。ドイツなどで影響がある」と、米国の追加関税が欧州やアジアでの競争激化を招いているとの見方を示す。加えて最大45.3%の関税が課されているにも関わらず販売が衰えていない中国製EVの存在も、市場の競争を激化させている。
その中で日本勢が巻き返しに向けて投入するのが競争力を高めた新型EVだ。トヨタ自動車は「C-HR+」や改良型「bZ4X」などを発売。三菱自「エクリプスクロス」、日産自動車「マイクラ」はいずれもルノーのEVプラットフォームを使い、同社工場で生産される。
欧州市場はコロナ禍以降、長らく景気の停滞が続いており、パワートレインに限らず価格と性能の〝コスパ〟への要求が他の市場以上に高いという。ICE車の販売規制が見直しとなれば、HVの「延命」も現実味を帯びてくる。一方で、EVの価格競争力も確実に高まっており、将来的な需要予測が難しい。日本メーカーは電動化の流れに全方位で対応しつつ、市場の風向きへの感度を高めることがこれまで以上に求められそうだ。
| 対象者 | 自動車業界 |
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