2025年10月24日
トランプ政権の環境規制見直し、日本メーカーにも影響 「関税引き上げ以上」とも
トランプ米政権による環境規制見直しの波が日本の自動車業界にも押し寄せている。前政権による電動車の補助金(税額控除)は9月末で打ち切られ、二酸化炭素(CO2)排出やゼロエミッション車(ZEV)規制未達時の罰金も事実上、廃止された。電気自動車(EV)の開発や販売への影響は必至だ。業界からは「自動車関税の引き上げ以上に影響がある」との見方も。購買力や油価、州政策や環境意識などが複雑に絡むパワートレイン別の需要動向が読めず、各社は頭を悩ませる。
マツダの大型SUV「CX―70」「CX―90」の8月米国販売はともに前年同月を1~2割上回った。両車にはプラグインハイブリッド車(PHV)の設定があり、補助金廃止前の「駆け込み需要があった」(広報)という。ホンダのEV「プロローグ」も8月は同73.1%増、9月も20.8%増だった。
ただ、10月以降の販売減は避けられない。ホンダは補助金廃止を見越して「アキュラ ZDX」の生産・販売を25年式で終了すると発表。日産自動車も「アリア」の26年式の米国向け生産を一時停止し、新型「リーフ」に経営資源を集中させる。
日本メーカーの関係者は「現政権の間は環境規制は緩くなるだろう。事業戦略を考えても(影響は)大きい。ユーザーの需要にあった適切な製品を出していくのが重要だ」と話し「(現政権の方針で)燃費の規制はそれなりに残るだろう」とも付け加えた。
意外なことに、EV専業メーカーも環境規制の見直しは痛手となる。CO2規制やZEV規制地域におけるクレジット(排出枠)売却収入が見込めなくなるからだ。例えば、米テスラはこれまで、他社にこうしたクレジットを売却して累計1兆5千億円以上を稼いでいたが、27年には消滅するとの見方もある。ホンダもEV補助金の早期終了とZEV規制の無効化により、将来のクレジット収入が見込めなくなり、約500億円の影響が出ると想定し、25年4~6月期決算に織り込んだ。
そもそもEVは、思ったほど米国市場で受け入れられていない。今年4~6月のパワートレイン別シェアは7.4%(モーターインテリジェンス調べ)。現地に詳しい日本メーカー関係者は「新車でなんとか横ばいを維持している。まずは在庫をはかないといけない状況だ」と語る。
対照的に好調なのが、12.8%(同調査)までシェアが増えたハイブリッド車(HV)だ。もっとも米国での売れ行きは油価次第の側面もある。スバルの江森朋晃専務執行役員は「かつては1㌎(約3.8㍑)4㌦を超えるか超えないかで売れ行きが変わった」という。1㍑換算では約160円だ。
10月20日時点の全米平均価格は3.0㌦。年末にかけて原油相場は下落するとの見方が広がっており、HVの販売動向も注目される。
米コンサルティング会社、アリックスパートナーズのマネージングディレクター、ラシンダーパル・ギル氏は「電動車は長期的には純内燃機関車からシェアを奪うが、現時点では減速している」と話す。今の自動車事業は、複数のパワートレインをそろえ、規制や市場動向をにらんでいかに機動的に投入できるかが鍵だ。燃費改善効果の高いストロングHVを含め、パワートレインの多様化で世界を一歩リードした日本勢だが、ドル箱の米国事業をどう舵取りするか、これからが正念場だ。
| 対象者 | 自動車業界 |
|---|
日刊自動車新聞10月24日掲載










