パナソニックオートモーティブシステムズ(PAS、永易正吏社長、横浜市都筑区)が人材の獲得や育成に力を入れている。昨年10月には企業内大学を設立し、将来的には〝学び舎〟をグローバルに広げることを検討する。さらに、業界全体として教育連携が進む可能性も視野に入れ、人材戦略を構想する。
単なる部品メーカーから脱皮し、新たな移動価値の提案を目指す(イメージ)
「PAS University(ユニバーシティ)」は、新たに採用する技術系の人材に体系的・実践的なソフトウエア技術の教育機会を提供するとともに、各技術領域における既存技術者の技量向上の機会を提供していくのが目的だ。パナソニックグループとして培ってきた人材のノウハウやカリキュラムを継続活用するとともに、受講生となる社員が自らの意思で参加し、専門分野では逆に講師となる機会などを通じ、双方向のコミュニケーションを深め、組織と個人の成長につなげることを目指している。研修機関にとどまらず、経営理念やミッション・ビジョン・バリューを掲げることも特徴だ。
既存の研修基盤を統合しつつ、経営理念やバリューを学ぶ共通研修、技術・品質・ものづくりを中心とした専門スキル研修、さらにはマネジメントや語学教育までを体系化した。サイバーセキュリティやユーザー体験(UX)デザインなどの先端領域でエキスパートも育成している。
講師には外部の識者も招き、専門機関との連携も構想する。豊富な経験と高い知見を持つ社員や役員をはじめとする人たちが講師となり、座学だけではなく、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)や現場での教育機会の提供も進める。これらを通じ、単なる受け身の研修から「双方向のコミュニティ」へと進化することを打ち出す。
目指すのは、単なる人材育成ではなく「ソフトウエアファースト」の開発文化の定着だ。世代を超えて継続的にソフト資産を進化させ、クラウドネイティブな開発手法を取り入れ、健全なエコシステム(生態系)を形成する。
この取り組みは、採用戦略とも連携させている。新卒採用では従来型のインターンシップ(就業体験)に加え、ソフトウエア・デファインド・ビークル(SDV)関連の業務を先取りして体験できるようなインターンなども展開。就職活動の現場で高まる「実務体験」や「職場訪問」へのニーズに応じつつ、同大学を通じて若手人材に早い段階で具体的な仕事像を描かせる工夫を進めている。
同大学はまず、国内での取り組みだが、将来は海外拠点にも広げることを目指す。企業内大学同士がコンテンツを融通し合うといった取り組みが一般的になれば、自動車業界全体の底上げにつながるとの期待もある。
こうした人材関連の取り組みは、メガサプライヤーなどでも活発になっている。独ロバート・ボッシュは、本社のあるドイツをはじめ、世界7カ所に独自の「ボッシュ・トレーニングセンター」を設立。年間200講座・400セッションもの教育機会を提供している。コンチネンタルやZFといったメーカーでも社内横断的な取り組みを進める。
これまで、部品の品質やコスト競争力を磨いてきた自動車部品メーカーだが、あるサプライヤーの首脳は「これからはユーザー体験をわれわれも考え、〝待ち〟の姿勢ではなく、メーカーに提案できるようにしていくことが重要だ」と話す。PASも人材戦略を刷新し、新たな移動価値の提案へとつなげていく考えだ。