2025年9月30日
トヨタ、水素エンジン車の開発加速 WEC2028年への参戦目指す
トヨタ自動車が、水素を燃料とするプロトタイプカーの開発を進めている。2028年から世界耐久選手権(WEC)に導入される水素カテゴリーへの挑戦を目指す。TGR―E(トヨタ・ガズー・レーシング・ヨーロッパ)主導で開発を加速させるとともに、ル・マン24時間主催団体との協業も強化する。TGR―Eの中嶋一貴副会長はWEC富士大会で行った27日の会見で「トヨタは液体水素の車両を先行開発しており、レギュレーション(規則)が固まれば、それに向けていつでも準備する」と語った。
GR LH2レーシング・コンセプト。水素エンジンとハイブリッドシステムを組み合わせたパワートレインを搭載する
ル・マン24時間レースを主催するフランス西部自動車クラブ(ACO)は、28年に水素カテゴリーを導入する予定。ACO内で水素レーシングカーを研究するプロジェクト「ミッションH24」が試験車を製作し、技術規則や安全性などレギュレーション作りを進めている。
トヨタはこのカテゴリーへの参戦を視野に入れている。今年のル・マン24時間レースでは液体水素(LH2)を燃料とするテストカー「GR LH2レーシング・コンセプト」を公開。現在、WECに参戦する「GR010ハイブリッド」をベースに、水素エンジンとハイブリッドシステムを組み合わせたパワートレインを搭載している。
トヨタは23年のル・マンで「GR H2レーシングコンセプト」を披露したが、モックアップ(模型)だった。今回のGR LH2レーシング・コンセプトは実走テストを行う計画。TGRの加地雅哉モータースポーツダイレクターは「年末ごろから開発テストをしていく」と話す。26年にも固まる水素カテゴリーのレギュレーションをにらみながら開発を続けていく考えだ。一方、ミッションH24との協業も水素レーシングカーの開発に生かす。TGRとミッションH24は今年6月、レースにおける水素活用に向けた協業を始めると発表。すでに冷却システムと空力の分野で技術連携を進めている。
ミッションH24の最新の試験車両「H2EVO」では、燃料電池の冷却システムに力を入れている。TGR側からは「(熱を効率的に排出する)ルーバー形状や開口部の位置を変更など、冷却効率を高めるための提案がなされ、検討を進めている」(ミッションH24のバッセル・アスランテクニカルディレクター)という。車体構造を最適化する提案もあり、燃料電池の冷却に必要な空気量を増やすなどの改善も進めている。
空力面では「空気抵抗を大幅に低減しながらも、十分なダウンフォースを維持できるようなリアウイングの改良提案をもらっている」(同)という。こうした協業の成果は、GR LH2レーシング・コンセプトの開発にも反映させる考え。中嶋副会長は「この提携を通じて得られるものはわれわれの開発にも生きてくる」と話した。
トヨタはWEC用のプロトタイプカー以外にも、市販車ベースの競技車両やラリーカーでも水素マシンの開発を進めている。日本の耐久レースカテゴリー「スーパー耐久シリーズ」では液体水素エンジンを搭載した「GRカローラ H2コンセプト」で参戦中。22年には、GRヤリスH2が世界ラリー選手権(WRC)のイプルーラリー(ベルギー)でデモ走行し、ラリーの世界における水素エンジンの可能性をPRした。
トヨタが、各カテゴリーで水素競技車両の開発を進めるのは、単に技術開発だけが目的ではない。WECの水素カテゴリーに関しては、ACOのテクニカルワーキンググループにおいて「4社を超えるメーカーが参加しており、間違いなく他のメーカーも興味を示している」(ACOのフィヨン会長)という。モータースポーツは自動車メーカーの威信を掛けた競争の場でありながらも、レースを通じた次世代技術の実験場でもある。今は〝水素利用の仲間づくりの場〟にもなりつつある。
日刊自動車新聞9月30日掲載