2025年9月12日
選択肢広がる軽EV、停滞局面の打開なるか 競合参入で市場活性化に期待
軽自動車市場で電気自動車(EV)の選択肢が拡大している。ホンダが軽EV第2弾の「N―ONE e:(エヌワンイー)」の発売を開始し、トヨタ自動車とダイハツ工業、スズキは共同開発の商用軽EVを2025年度に投入する。26年には比亜迪(BYD)が軽EV市場に参入し、プレイヤーは一気に拡大する。航続距離や充電インフラに制約があるEVは、軽自動車と親和性があるとの指摘がある一方で、軽EV市場をけん引してきた日産自動車「サクラ」の販売ペースは落ち込んでいる。競合車種が増えることで軽EV市場は勢いを取り戻せるか。
軽自動車は国内新車市場の約4割を占め、特に地方においては買い物や通勤などの生活の足として普及が進む。他方、EVは割高な車両価格に加えて航続距離の短さや充電インフラの不足が普及を妨げており、販売比率は1%程度にとどまる。ただ、航続距離の短さは生活の足として使われる軽自動車では大きなデメリットにならない。ガソリンスタンドの閉鎖が進む地方では、自宅で充電できるEVはガソリン車に比べてむしろ利便性が高まる。
残る課題は価格だ。サクラの車両本体価格は259万9300円(消費税込み)からで、国の補助金(57万4千円)を利用すると約200万円、自治体の独自支援がある場合は100万円台で購入可能だ。東京都の補助金を利用した場合、自宅に太陽光パネルなどを設置すれば最大で90万円が上乗せされる。同車格の日産「デイズ」(143万7700円から)の価格を下回ることになる。
このため、サクラは22年6月の発売から1年間で3万5千台超を販売し、ピーク時は月間4千台を超えた。23年の販売台数は3万7140台にのぼり、登録車を含む国内EV販売の約4割を占め、軽EVの潜在需要の掘り起こしに成功した。ただ、24年は前年比38.3%減の2万2926台となり、直近では月間1千台を切る月も出てきた。日産の販売店からは「軽EVのアーリーアダプター(初期の購入層)需要が一巡したのではないか」という声も聞かれる。
軽乗用EVは輸入車を除けばサクラと三菱自動車が販売する兄弟車「eKクロスEV」のみで競合車が存在しない。消費者の選択肢が増えれば軽EV市場が活性化する可能性はある。
ホンダが24年10月に発売した軽EV第1弾の「N―VAN e:(エヌバンイー)」は25年3月までに4千台超を販売した。三菱自の「ミニキャブEV」のほか、中国勢が攻勢を強める軽商用EV市場において、好調な滑り出しを見せている。
ホンダ初の軽乗用EVとなるエヌワンイーはサクラの強力なライバルとなる。エヌワンイーの価格はサクラより約10万円高いが、1充電あたりの航続距離は約115㌔㍍も長い。サクラの割り切った航続距離がネックで購入を見送った顧客層を取り込む余地はある。BYDが投入する軽EVの実力は未知数ながら、価格競争力の高い商品で挑んでくるとみられる。また、軽EVは商品力のみならず、系列ディーラーの営業力や充電サービスの充実なども販売を左右する要因となる。いずれにしても競合車が増えれば増えるほど商品やサービスが磨かれ、軽EV市場の活性化につながっていくことになりそうだ。
対象者 | 自動車業界 |
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日刊自動車新聞9月12日掲載