2025年6月30日
〈インタビュー〉国交省、鶴田浩久物流・自動車局長
事故車修理「標準作業時間」調査 海外も参考に客観的・科学的把握へ
国土交通省が2025年度に行う事故車修理の価格決定に用いられる「標準作業時間」の調査について、鶴田浩久物流・自動車局長は、海外の指数策定方法も参考にしながら客観的・科学的に標準作業時間を把握する考えを明らかにした。調査は第三者機関に委託して、年度内に結果を公表する予定だ。車体整備事業者が損害保険会社と事故車修理の価格交渉を行う際に取り組むべき内容を盛り込んだ指針も示し、車体整備業界の賃上げや人材不足解消に向けた環境整備を後押ししていきたい考えだ。
作業映像の記録など多角的に
―標準作業時間の調査を国交省が第三者的立場から行う狙いは
「(国内で)事故車修理の標準的な作業時間として修理価格の算定に広く使用されている『指数』については、保険金の迅速な支払いのために有効な役割を果たしている。一方で、指数に定める時間内で作業を終えることは不可能なものもあり、『修理作業の実態を反映していない』と、車体整備事業者からの声が多く寄せられている。このため、国交省として客観的かつ科学的に標準作業時間を把握する必要があるとして調査を実施する」
―どのような調査手法を検討しているのか
「代表的な車種と作業を選んだ上、類似する海外の指数策定方法も参考にしながら、理論的に標準作業時間を調査する。日本の主要な指数と比較可能なものとなるよう、前提条件などは可能な限りそろえる。理論値の妥当性を確認することも必要なため、実際に同様の作業を行い、映像を記録して作業時間を計測するなど多面的にやっていきたい」
「調査は外部の技術コンサルに委託する。技術コンサルを決定後、(予算の範囲内で)調査対象の車種、台数、作業の範囲などの詳細を決める。調査結果は年度内に公表することを目標に考えている。損保会社や自検センターなどとの対話でも活用する考えだ」
―3月に「車体整備事業者による適切な価格交渉を促進するための指針」を公表した
「前提となる認識として、事故車の修理では労務費の転嫁を柱とする価格交渉が課題にある。その根っこ(要因)にあるのが、車体整備事業者と損保会社との間で十分な対話・交渉が行われていないことだと認識している。そこで、適切な価格交渉を促進するために、車体整備事業者が取り組むべき事項をまとめた指針を策定・公表した」
「指針には、①自社の責任で見積もりを作成し、丁寧に説明すること②(指針に別紙で添付した見積書・領収書、作業記録簿の)標準様式を用いて費用を適切に請求すること③損保会社の説明もしっかりと聴くこと④協議が整わない場合には、依頼者に相談すること―などを規定している」
―指針に「作業内容および価格項目(修理作業のほか、代車費用や廃棄物処理費用など付随する費用を含む)を明らかにし、作業内容に応じた請求を行うこと」と明示した
「これまでの車体整備事業者の見積もりや領収書は、作業内容や価格項目が大くくり過ぎて修理価格の妥当性が分かりづらく、適切な請求ができていないことにもつながっていた。そこで、価格項目を細分化・明確化して適切に請求できるようにするため、車体整備業界の協力も得ながら見積書・領収書と作業記録簿の標準様式を作成した」
「車体整備事業者には、これらの標準様式を参考に、各作業内容やそれに応じた価格を明らかにして自動車ユーザーに対する修理価格の透明性を確保するとともに、実施した作業や発生した価格項目をなかったことにしない請求漏れがないようにしてほしい」
―「複数の価格項目を一つの大項目にまとめることや、各費用の積算により算出した修理価格の合計から『総額値引き』をする場合は、各費用の妥当性・透明性を失わせる恐れがあることに留意すること」とある。この一文に込めた問題意識や狙いは
「『総額値引き』については、取引上の落としどころなどとして必ずしも否定するものではない。ただ、せっかく細分化・明確化したものを最後に再び大くくりにすることになる。(値引きを)やり過ぎると見積もりの妥当性や透明性に疑義が生まれることにもなりかねない。よく留意していただきたいとの思いを込めた」
―車体整備事業者のこれら取り組み状況をどう確認するか
「指針にも掲載したが、工賃単価の値上げ幅の『参考』となる合理的指標(最低賃金の上昇率、春闘の結果)、見積書や作業記録簿の標準様式の活用状況を業界団体の協力も得ながら調査する予定だ」
2つの指針を参考に適切な価格交渉期待
―指針を踏まえ、国交省として車体整備と損保の両業界・各社に期待することは
「日本損害保険協会も2月に『修理工賃単価に関する対話・協議のあり方にかかるガイドライン』を策定・公表した。価格交渉はお互いがある話なので、両業界で2つのガイドライン(指針)を参考に、適切な価格交渉が行われることを期待している。(車体整備業界と損保業界が)〝同じ船〟に乗って、互いに良い動きになった。これを機に(適切な価格交渉と賃上げの実現に向けた)好循環の始まりにしていかなくてはならない」
対象者 | 自動車業界 |
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