2025年6月16日
中古車の放射線量検査、全面衝突回避へ JUMVEAが代表で検査料の返還請求 「拒否」なら訴訟
福島第一原発事故の後、船積みする中古車の放射線量検査が今も続き、輸出事業者らと港湾業者らが対立する問題で、港でのトラブル回避のために輸出業者が新しい方針を示した。やむを得ず検査料を支払った場合、日本中古車輸出業協同組合(JUMVEA、佐藤博理事長)が、検査団体などに検査料の返還を請求し、応じない場合は検査団体を民事訴訟で訴えるという。
この問題については、政府が事実上の検査廃止要請を1月に表明した。それを受けて、JUMVEAや日本陸送協会(会長=北村竹朗ゼロ会長)は7月以降、検査料の支払いはできないと関係者に伝えた。
ただ、この件で港湾業者側の実権を握る労働組合は「労働者の健康を守るため」として、検査を継続する方針。
JUMVEAによると、労組の方針が変わらないため、輸出の手続きなどをする通関業者の中には「検査費用の負担に同意しない輸出業者の車両の保税倉庫搬入を拒否する」と表明している業者もいるという。このままでは7月以降に各地の港で船積み拒否など不測の事態が起こるのは避けられない。JUMVEAでは、運搬を拒否した通関業者などについて、場合によっては法的措置を取ることを表明。しかし、通関業者の意向に強い影響力を持つ労組が強硬姿勢を崩さず、港でトラブルになる可能性が高まっていた。
このため輸出業者側として全面衝突を避け、新方針をとることにした。一方的に検査をしている検査団体などにJUMVEAが代表して返還要求する。港運業界から指定されている5つの検査団体などに対して通知文を発送した。検査団体は返還要求に応じないことも想定され「その場合は、もう法廷で争うしかない」(JUMVEAの佐藤理事長)という。
検査料だけを検査団体などから直接請求されれば、これまでも支払いを拒否できた。しかし、通関業者が発行する請求書には、複数の勘定費目の中に検査料が含まれているため、検査料だけ支払いを拒否することが難しかった。JUMVEAは以前、検査料とそれ以外と別々に請求できないか通関業者に相談したが、難色を示された。通関業者にとっても、港湾作業の労働組合ににらまれたくないという思いがあったようだ。
政府は「検査はもう必要ない」という事実上の見解を示したが、法的拘束力はなく、事実上、傍観している。
この検査は、原発事故直後に、港運業界の団体と労組の合意で始まった。全国の中古車輸出業者や陸送業者が年間で数十億円を負担する。法律で義務化されたものではなく、事業者から政府に廃止要求が出ていた。検査をめぐる民事訴訟の東京高裁確定判決(2017年9月)でも、科学的見地から港湾労働者への健康被害は考えにくく「すべての中古車の放射線量検査の必要性は認められない」との司法判断が出ている。
対象者 | 自動車業界 |
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日刊自動車新聞6月16日掲載