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自動車産業インフォメーション

2025年4月14日

自動車産業を翻弄するトランプ関税

対象部品は広範囲 オールジャパンで供給網維持へ

 トランプ米政権の関税政策に日本の自動車業界が振り回されている。自動車・部品にかかる追加関税(25%)の影響は免れないが、詳細が決まるのはこれからで、世界にまたがるサプライチェーン(供給網)への影響を把握するだけでもひと苦労だ。関税影響の実体化に合わせて「回避」「吸収」「転嫁」を組み合わせた対応が段階的に進むことになりそうだ。

 米国はもともと、乗用車と自動車部品の一部に2.5%の輸入関税を課している。追加関税を足すと税率は27.5%となる。小型トラックの関税率は25%だったため、追加関税の発動後は50%だ。一方で軽減措置として「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」に基づく完成車は、米国産以外の部品の〝価値〟に25%の関税をかけるようにする。この適用プロセスが確立されるまでは追加関税が猶予される。

 

 

 追加関税の対象となる自動車部品の細目は5月3日までに判明する。エンジンや変速機、車載電池といった大物部品に加え、バックミラーやワイパー、タイヤなど広範囲になる見通しだ。米国生産から撤退した住友ゴム工業の山本悟社長は「価格転嫁などを迫られる局面は出てくるだろう」と警戒する。

 USMCAは、第1期目のトランプ政権が北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しを主張し、2020年7月に発効した。戦後、米国は自由貿易を推進してきたが、トランプ大統領は17年に環太平洋パートナーシップ協定(TPP)からの脱退を決め、保護貿易主義へと舵を切った。USMCAでも、自動車分野の原産地規則(ROO)を見直し、米国内への製造業回帰を狙った。第2期トランプ政権が発足後直ちに高関税政策を打ち出せたのは、第1期政権時代のデータやノウハウがあったからだ。

 米国を主力市場とする自動車メーカーは多いが、追加関税の影響は各社で異なる。日本勢で最も米国販売が多いトヨタ自動車は、年間販売(約200万台)の半分を輸入車で賄う。生産地は日本やカナダ、メキシコなど。ただ、世界販売に占める米国比率は2割強に過ぎず、業績インパクトは小さい。日本勢で最も米国依存度が高い(販売比率で7割)スバルも、約半分は関税がかからない米国で生産している。一方でマツダは世界販売の約3割を米国が占め、現地生産率も2割弱のため追加関税の影響は大きい。同社は「関税対応チーム」を立ち上げ、対応を急ぐ。

 すでに追加関税をにらんだ動きも表面化している。伊フェラーリは、米国で最大1割の値上げを発表。フォルクスワーゲン傘下のアウディや英ジャガー・ランドローバーは米国輸出を見合わせると報じられた。日産自動車は、国内で生産する北米向け「ローグ」の一部を米国のスマーナ工場(テネシー州)へ移す検討を始めた。

 米国勢も〝無風〟ではいられない。メキシコなどから完成車や部品を大量に輸入しているからだ。ゼネラル・モーターズ(GM)はインディアナ州の工場で増産を計画する。逆に米国販売の8割を米国製が占めるフォード・モーターは値下げを発表し、攻勢に打って出る。

 もっとも、日本貿易振興機構(ジェトロ)の担当者は「関税の影響が表面化するのは6~7月ではないか」と話す。各社とも追加関税がかかる前の流通在庫を持つからだ。調査会社のマークラインズによると、在庫が何日分の販売に当たるかを示す「在庫日数」(2月末)はトヨタが30日、ホンダが49日、日産が45日、スバルが43日、マツダも53日分ある。

 トヨタは「当面は現在のオペレーションを維持する」とコメント。車両価格や仕入れ値を据え置き、関税影響を自社で吸収する考えだが、〝当面〟がいつまでを指すかは分からない。相互関税と違い、自動車・部品のような分野別関税は思いのほか長期化する公算もあるし、米国内のインフレが加速し、トランプ米政権が方針転換を余儀なくされる可能性もある。政策の予見可能性が極めて低く、人件費や物流費なども高止まりする中で、追加関税リスクを最小化する最適解を導き出すのは至難の業(わざ)だ。

 石破茂首相は11日、米側と関税交渉に当たる担当閣僚として、側近の赤沢亮正経済再生相を正式に指名した。今週にも関税の引き下げや除外を求める交渉が始まる。政府は同時に国内産業の支援策づくりも急ぐ。「サプライチェーンが一度でも壊れると(再構築は)難しい」と、日本自動車工業会の片山正則会長は危ぐする。戦後の自由貿易体制を主導してきた米国自らが変節するという未曾有(みぞう)の危機。基幹産業の崩壊を食い止めるため、オールジャパンで懸命の模索が続く。

 

カテゴリー キャンペーン・表彰・記念日
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞4月14日掲載