2025年3月21日
プラグインハイブリッド車、EVの足踏みで存在感
〝ポストハイブリッド〟として注目されるプラグインハイブリッド車(PHV)。ハイブリッド車(HV)と電気自動車(EV)の中間的な特徴を持ち、比亜迪(BYD)など中国勢も相次ぎ新型車を売り出す。価格か、それとも性能か、PHVの〝競争軸〟はまだ定まっていないが、PHVを増やしつつあるトヨタ自動車は「充電可能なHV」にとどまらず、力強い走りにも、低燃費にも、快適性やショーファーカー(専属の運転手を持つオーナー向け車)にも振ることができるコアテクノロジーとして熟成させる考えだ。
「アルファード/ヴェルファイアPHEV」のEV走行距離は73キロメートル
駆動用電池を床下に積み重心を下げた
現在、トヨタが世界で販売するPHVは12車種。1月31日に発売した「アルファード/ヴェルファイア」の「エグゼクティブラウンジ」に設定されたPHVは日本初のミニバンPHVだ。PHVを設定した狙いについて、開発責任者の黒栁輝治氏(トヨタ車体領域長)は「アルファード/ヴェルファイアはトヨタのミニバンの中でトップエンドだ。より高みを目指す中で、PHVとの相性が良いと考えていた」と明かす。
2023年6月の全面改良で、アルファードはショーファーカー、ヴェルファイアは運転する喜びを感じる車にそれぞれ性格づけた。PHVを設定したのは、この車両特性をさらに追求するためだ。
両モデルには、排気量2.5㍑の直列4気筒エンジンを組み合わせたシリーズパラレル方式のプラグインハイブリッド機構を搭載する。18.1㌔㍗時のリチウムイオン電池により、EV走行距離は73㌔㍍(国土交通省審査値)を実現。一般的なショーファーカーとして走る距離の95%をEV走行でカバーできるようにした。
車載電池を車体中央の床下に積むことで、HVと比べ重心を35㍉㍍下げ、この効果で車体上部の動きを安定させてショックアブソーバーの減衰力を小さくし、揺れが少なくフラット感のある乗り心地を実現したという。
上級車種に不可欠な静粛性も大幅に改善した。パワートレイン開発を担った冨田誠氏(トヨタ自動車パワートレイン製品企画部次世代プロジェクト企画グループ グループ長)は「バッテリー容量が大きいためモーターアシスト領域を増やすことができ、その分だけエンジン回転数を抑えて走ることができる。つまり、音のレベルも下がる」と説明する。インパネやドアの内部への遮音材を追加したこともあり、HVと比べると車内音レベルは最大で3分の1も改善できているという。
PHV効果は、2.4㍑ターボエンジンを超える動力性能も生み出す。システム出力や、0~100㌔㍍/時加速の数値で上回るだけでなく「後席に乗っている方が揺れにくいなどコントロール性を重視した」(冨田氏)という。「スポーツカーみたいにドンと出るようなトルク感ではなく、ググッと盛り上がっていくスムーズでつながった感のあるパワートレインチューニングにしている」(黒栁氏)のも特徴だ。
開発責任者の菅間隆博氏(トヨタ車体TYZ ZH)は「質感の向上でもPHVのポテンシャルは大きい」と話す。
燃費改善効果の高いHVは日本勢が強いが、PHVをめぐっては、BYDが第5世代「DM(PHV)」技術を搭載した「奏L DM―i」「海豹(シール)06 DM―i」の販売を伸ばすなど、競争の行方はまだ混沌(こんとん)としている。単に電池容量を増やせばEV航続距離は延びるが、そのぶん充電時間も延び、価格も高くなる。冨田氏が「毎日、悩んでいる」と言うほど、PHVとしての最適解はまだ見えていない。国・地域によって異なる可能性もある。
トヨタは、EV航続距離を200㌔㍍以上に延ばしたPHVを「プラクティカル(実用的)なBEV」と再定義して開発を進める。位置情報を活用した「ジオフェンス」と呼ばれる技術を使えば、エンジン車の乗り入れ規制時に合わせ、強制的に電気自動車(EV)として走らせることも可能だ。と同時に「よりアフォーダブル(手頃)なPHVも必要だと考えている」(冨田氏)。黒栁氏も「(PHVを)広げるためにはいろいろなグレードに設定していくことが大事だ。それは次のステップになる」と話す。
トヨタのカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)に向けたマルチパスウェイ戦略の一翼を担うPHV。リース販売を経て、トヨタがEV航続距離30㌔㍍ほどの「プリウスPHV」を売り出してから13年が経った今、SUVやミニバンだけでなく、幅広い車種の魅力をそれぞれ高めるコアテクノロジーとして新たな普及ステージに差し掛かった。
対象者 | 自動車業界 |
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日刊自動車新聞社3月21日掲載