2025年2月27日
自動車業界、トランプ関税に高まる警戒感 日米経済への悪影響懸念 官民で適用除外狙うが
トランプ米政権の関税政策に対する警戒感が高まっている。メキシコやカナダからの輸入関税に加え、その他の国からの輸入車にも「25%程度」の関税をかける方針をトランプ大統領は示唆する。日本としては、官民を挙げて投資や雇用などで米国経済に貢献している実績を説き、関税の適用除外を狙うが、米国への自動車輸出(乗用車、金額ベース)ではメキシコに次ぐ2位の座にあることも確かで、先行きは予断を許さない。
「日米双方の経済に与える悪影響が懸念がされる。追加関税の適用が免除されるよう尽力いただけることを強く望む」―。日本自動車工業会(自工会)の片山正則会長は25日、面会した武藤容治経産産業大臣にこう求めた。
トランプ大統領は1月20日の就任以降、予告通り関税の発動を相次ぎ表明してきた。現時点ではメキシコとカナダからの輸入品に3月4日から25%の関税を、鉄・アルミニウムに3月12日から25%の追加関税を課す。4月2日には自動車に対する関税について発表する見通し。税率や対象国は明らかになっていないが、高関税の相手国に同率の関税を課す「相互関税」とともに「非関税障壁」も問題視しており、日本がやり玉に挙げられる公算は決して小さくない。
関税の影響は甚大だ。日本から米国に輸出された車両は2024年で約137万台。ピークの1986年(約343万台)と比べて大幅に減少したものの、約800万台規模の国内生産を支える最大の仕向地であることには変わらない。金額ベースで年間1兆2千億円規模を米国に輸出する自動車部品メーカーへの影響も大きい。片山会長は「輸出は米国の顧客のさまざまなニーズに応じるラインアップを提供するためには不可欠なものだ」と強調する。
メキシコやカナダに工場を持つ自動車メーカーや部品メーカーはさらに大きなリスクを抱える。昨年実績でメキシコ、カナダと米国の間で約61万台の車両を輸出入したホンダ。平均単価は3万㌦で、ここに25%の関税をかければ年間約7千億円の営業利益を失う計算だ。それでも、他社に比べてホンダの米国販売に占めるメキシコやカナダからの輸入割合は低く、日産自動車やマツダは相対的にさらに大きな影響を受ける。
複雑なサプライチェーン(供給網)を持ち、開発や生産に年単位のリードタイムが要る自動車メーカーが打てる短期的な対策は限られている。各社はまず、関税が上がる前に米国の在庫を積み増しているが、効果は一過性だ。トランプ大統領が求める米国への生産移管や工場の新設も数年単位の期間と多大な投資がかかる上、人件費などを考えれば必ずしも得策とは言えない。通商措置が長引くとの確信があればともかく、政権交代の可能性を考えれば経済合理性にも乏しい意志決定に躊躇(ちゅうちょ)せざるを得ない。
メーカーによって考え方が分かれそうなのが、関税分の価格転嫁だ。フォード・モーターのジム・ファーリー最高経営責任者(CEO)は5日の決算説明会で「業界の利益が数十億㌦規模で消滅すれば雇用や業界全体の価値体系に悪影響が及ぶ。関税は顧客にとって価格上昇を意味する」と主張した。一方、トヨタ自動車の上田裕之渉外広報本部長は「関税でも何でも1%、2%の変化があればまず、原価を下げるアクションをとる」と話す。原価低減で吸収しきれない分は負担を迫られるが、競合他社が車両価格を上げれば、相対的にトヨタ車の価格競争力が増し、シェアの拡大にも結びつく。
とはいえ、原価低減にも限界はある。まずは官民一体でトランプ米政権に粘り強く関税の回避を働きかける必要がある。武藤経産相が近く訪米するほか、自工会や自動車メーカーも米政府関係者らに直接、理解を求める活動に取り組む方針だ。
メキシコやカナダはさらに大きなリスクに(マツダのメキシコ工場)
カテゴリー | 会議・審議会・委員会 |
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対象者 | 自動車業界 |
日刊自動車新聞 2月27日掲載