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自動車産業インフォメーション

2025年2月18日

自動車サプライヤー、トランプ関税対策に頭悩ます 一筋縄ではいかぬ生産移管

 トランプ米政権の関税政策をめぐり、日本の素材や部品メーカーが対策を検討し始めた。サプライチェーン(供給網)や生産拠点の見直し、価格への転嫁交渉などが主な選択肢だ。ただ、トランプ大統領が望む米国生産には人件費の壁も立ちはだかる。日本車の生産や米国の内需にブレーキがかかったり、世界経済が混乱することも危惧される。関税影響がどこまで広がるか見通せず、各社は頭を悩ませている。

 アルミダイカスト大手のアーレスティ。清水敦史執行役員は「(関税で)真っ先に影響が出るのはメキシコ事業だ」と話す。トランプ米大統領は就任後、カナダとメキシコからの輸入品に25%の関税を課すと表明。「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」を踏まえて3カ国にサプライチェーン(供給網)を築いてきた自動車や部品メーカーを困惑させている。ミラーなどを手掛ける村上開明堂は、メキシコで生産している一部の構成部品を、米国など他地域での生産に切り替える検討を始めた。

 カナダで2027年後半にリチウムイオン電池用セパレーター工場を新設する旭化成は、カナダ域内で生産した車載電池を売り切るか、塗工工程の一部を米国へ移管するなどの検討に入った。

 ただ、サプライチェーンの見直しには時間がかかるし、必ずしも米国生産が最適解とは限らない。アーレスティの清水執行役員は「米国での労務費を考慮すると、関税がかかったとしてもメキシコで生産した方が有利なケースもある」と話す。東海理化の篭橋榮治収益改革本部長も「誰がどのように関税を負担するかにより、生産体制の変更を検討する」と語る。

 日本特殊陶業の川合尊社長は「(関税分は)納入先に請求し、お互い、どこまで折り合えるかを各メーカーと話し合っていくことになるのでは」と話す。主力の点火プラグは米国でも生産しているが、原料となるセラミック材料は日本製だ。製造には独自のノウハウがあり、米国生産はそう簡単ではない。カナダ、メキシコ両方に生産拠点を持つ武蔵精密工業の大塚浩史社長も「当社としては顧客に相談していくスタンスだ」と明かす。

 自動車用シートを生産するタチエスの山本雄一郎社長は「販売台数は間違いなく減る。これが一番のインパクトとなる」と関税の影響を危惧する。三菱電機の幹部も「当社の競争力というより、消費そのものへの影響が考えられる」と指摘した。実際、1月の米消費者物価指数(CPI)は前月比0.5%上昇。昨夏から月を追うごとに上昇率が高まっている。

 また、トランプ米政権は関税や非関税障壁の高い国に相応の関税を課す「相互関税」の検討に入っているが、対象国が報復関税をかければ、世界経済が幅広く打撃を受けかねない。〝トランプ関税〟の影響をいち早く見極め、対策を取りたいところだが、発動の時期や内容、適用除外措置など不透明な要素も多く、当面は状況を注視しながらシミュレーションを重ねるなど、気を揉む展開になりそうだ。

日刊自動車新聞2月18日掲載