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2025年1月30日

自工会と部工会、適正取引の浸透へ連携加速 サプライチェーン強化狙目指す

日本自動車工業会(自工会)と日本自動車部品工業会(部工会)が、適正取引の浸透に向けた連携を加速させている。セミナーの共催や、両団体のサプライチェーン(供給網)を担当する部会の意見交換会を定期的に開催している。自動車業界でも大手を中心に価格転嫁が進むが、産業のすそ野が広く、ティア(階層)も深いため、適正取引の機運がサプライチェーン全体に広がりにくい構造問題がある。自動車産業の競争力を高める上でもサプライチェーンの強靭(きょうじん)化が欠かせず、両団体は、よりティアの深い層へと適正取引の浸透を急ぐ考えだ。

 両団体の正副会長は、このほど、都内で懇談会を開いた。自動車メーカーと部品メーカーの首脳が集まり、適正取引の浸透に向けて直面している課題について、それぞれの立場から議論した。自工会の片山正則会長(いすゞ自動車会長)は「未来のためには部工会との連携が必要だ。将来の課題についても心強いタッグが組めそうだ」と語った。

 サプライチェーンの強靭化をテーマとした両団体の正副会長懇談会は2024年7月に初めて開催し、今回で2回目。この間、8月には取引適正化などを題材とした共催セミナーの実施や、適正取引をティア深くに浸透させることを目的とした説明会を浜松や愛知などで開いた。また、自動車メーカーの調達責任者と部品メーカーの幹部による意見交換会として「マネジメントコミッティ」「ステアリングコミッティ」を定期的に開催。①適正取引の更なる推進②競争力の強化③新たな価値・社会要請への対応―の3つを軸に議論を交わしている。

 中小企業庁が発表した24年9月の「価格交渉促進月間」フォローアップ調査結果によると、自動車・自動車部品業界の価格転嫁率は51.9%となり、3月の前回調査より4.8㌽上昇した。自動車メーカーや大手部品メーカーを中心に原材料費やエネルギー費、さらに労務費の価格転嫁が進みつつあるが、ティアの深い中小・小規模(零細)企業までは浸透していないのが現状だ。片山会長は「改めて自動車業界のすそ野の広さと深さを感じている。自動車産業で働く550万人を守り、拡大していくためにも(適正取引は)大事な活動だ」とも語った。

 部工会の茅本隆司会長(ニッパツ会長)も「一番難しいのは(適正取引を)浸透させていくことだ」と話す。部工会では、正副会長が会員企業へ個別訪問し、適正取引の浸透を図る〝草の根活動〟を進めている。また、中小部品メーカーの競争力強化や新たな価値・社会要請への対応について、部工会の齋藤克巳副会長(豊田合成社長)は「中小企業は何をやればいいのか分からないのが現状だ。『コスト負担が大きくて着手できない』などさまざまな声が上がっている」と述べ、中小企業の競争力強化を後押しする具体策の必要性を説いた。

 自工会の三部敏宏副会長(ホンダ社長)は「自工会と部工会のトップレベルで障壁を取り除くような、少し上位の概念も含めて議論していくと進んでいくのではないか。多少、テーマを絞って本質的な議論にすれば、自工会と部工会の連携の意味が深まるのでは」と提言した。

 自動車の競争軸は電動化や知能化へとシフトしつつあり、米テスラや中国新興メーカーの存在感が増す。日本の自動車産業の競争力維持には、両団体が課題を整理・共有した上で、政府への要望など一丸となって取り組みを進めていく必要がある。

 25年の春季労使交渉(春闘)では、大手との格差是正に向けた中小企業の賃上げが焦点だ。賃上げの原資を手当てする意味でも、適正取引の浸透が不可欠だ。

 自工会の佐藤恒治副会長(トヨタ自動車社長)は「競争力を担保しながら『水が流れるような』環境を作るのは難しい。個社個社での議論においてもなかなか難しい案件だ」と打ち明ける。とは言え、自動車産業ピラミッドの上位に位置する自動車メーカーや大手部品メーカーには、適正取引の潮流を粘り強く広げていく努力が求められそうだ。

(福井 友則)

 

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞1月30日掲載