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2024年12月24日

ホンダと日産、経営統合の行方は~経営統合協議入りへ

ホンダと日産自動車は23日、経営統合に向けた協議入りを正式に発表した。三菱自動車を交えた3社で持ち株会社の設立時期や出資比率、人事などを協議し、来年半ばにも最終合意を目指す。企業文化の違いやシナジーが見込みにくいと指摘する声もあり、協議は難航も予想されるが、経営統合が実現すれば、約800万台の生産・販売規模を持つ世界3位の自動車メーカーグループが誕生することになる。協業から経営統合へと関係が深化することで、サプライチェーン(供給網)や国内外の販売網を巻き込んだ地殻変動が起きる可能もある。

〈販売会社の視点〉
商品面の相互補完は見込めるものの、ホンダ、日産自動車の国内販売事業の先行きは現時点で見通しにくい。物流や補修部品の配送、中古車オークションや販売金融などの協業は進んでいきそうだが、販社や拠点の統廃合は地域事情や直営比率の違いもあり、その必要性も含めて一筋縄ではいかないからだ。2社のブランドは存続する見通し。もっとも似通った商品が増えれば販売競争が激化し、中長期的に販社や拠点の統廃合が不可避との見方もある。

 ホンダと日産は、ともに約2千拠点の販売拠点網を国内で抱える。ただ、販社数では地場の中小企業が多いホンダが約500社なのに対し、直営化が進んだ日産は100社程度と差がある。経営統合するとは言え、少子化などで国内の新車需要が先細りする中、両社とも販売ボリュームを増やしていくことは容易ではない。

 一方、商品補完については「3列シートミニバン『フリード』は欲しい」(日産系列販社社長)などと日産側から期待の声も聞かれる。ただ、共同開発にしろOEM(相手先ブランドによる生産)供給にしろ、商品補完は諸刃の剣でもある。ラインアップの重複範囲が広がれば、4千拠点もの新車拠点を構える必然性は薄れていく。ホンダ販社の中には「今のラインアップは恵まれている。正直、日産に商品を渡してほしくない」という声もある。

 ホンダ販社の首脳は「法人の統廃合もさらに進んでいくことになる」と指摘する。過去の成り立ちから小規模販社が多いホンダは、中長期の市場縮小をにらみ、販社の統廃合を促してきた。ホンダに限らず、テリトリー制度のもとで参入障壁が高かった新車販売会社だが、今ではオートバックスグループのような新資本の参入も受け入れ始めている。川上の経営統合を契機に、川下でも両社系列の販社間でM&A(企業の合併&買収)が進む可能性もある。将来的には「輸入車のようにマルチディーラーのような形が認められるのではないか」と指摘する声もある。

 もっとも、電気自動車(EV)を活用したエネルギーマネジメントなどの新事業や整備士不足、ソフトウエア・デファインド・ビークル(SDV)の受け皿づくりといった共通の課題もある。地域の競争環境や自社の経営にどのような変化をもたらすか、販売各社も両社の統合協議を注視する。

〈サプライヤーの視点〉
サプライヤーの間では期待と不安が交錯する。場合によっては取引拡大が見込めるものの、厳しい競争にさらされる可能性もあるからだ。また、3社が主導する形で業界再編につながる可能性もある。

 ホンダ、日産の両社と取引がある部品メーカーの役員は「先行きがどうなるかはまったく想像できない」としながらも「(三菱自動車を含めて)3社で部品共通化が進み、部品の受注量拡大が期待できる」と前向きだ。一方で三菱自と取引のあるサプライヤーのトップは「三菱自が日産と提携した際、日産との新規取引を見込んだが、ビジネス拡大にはつながらなかった」と振り返った。

 ホンダを主要取引先とするサプライヤー大手はこれまで、日産との取引には消極的だった。カルロス・ゴーン元会長時代から、日産の調達戦略が「コスト要求が厳し過ぎる」(ある部品メーカー)と感じていたからだ。このためか、調達方針が一本化された場合の影響を懸念する声も一部であった。

 日産を主力取引先とする部品メーカーの首脳は「協業を発表した時から、『もっと踏み込んだ議論になるのでは』と予測はしていた」と明かす。経営統合で売り込み先は増えるが「ホンダは系列部品メーカーとの関係が強い。そこに入り込めるかどうか」と慎重な見方を示す。日産と取引がある大手電機メーカーの別の首脳は「本当に統合できるかどうか。ハードルは低くないだろう。日産はリストラの具体策がまだ見えない。そもそも自動車業界の再編はうまくいった例があまりない」と冷静だ。「EV(電気自動車)関連部品は全需の拡大が期待できる。販路がさらに広がれば」と歓迎する声もある。

 系列サプライヤーの再編につながる可能性もある。3年前には日立オートモーティブシステムズとホンダ系のケーヒン、ショーワ、日信工業の4社が経営統合して日立アステモが誕生した。ホンダと日産はEV向け「eアクスル」を共同開発することでも合意している。日立アステモがその中心的な役割を担うが、日産系のジヤトコが次世代eアクスル向けの減速機で協業を検討している。

 EVや自動運転向けの競争力の高い基幹部品の開発に向け、ホンダ、日産や三菱自を主要取引先とするサプライヤーの力を結集するため、さらなる再編が進む可能性は否定できない。

対象者 自動車業界

日刊自動車新聞12月24日掲載