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2024年9月30日

低速電動車「グリーンスローモビリティ」 観光地や都市部で導入の動き

時速20㌔㍍未満で公道を走行できる電動車「グリーンスローモビリティ」への関心が高まっている。環境負荷が低く小回りが利くため、交通網が脆弱(ぜいじゃく)な地域で従来の公共交通機関を補完する役割が期待されている。インバウンドの拡大などで旅行客が増える観光地でも、移動手段の一つとして注目を浴びる。こうした流れを受け、ヤマハ発動機は同社として初めて、観光関連のイベントに車両を出展した。観光需要を開拓することで、グリーンスローモビリティの普及に取り組む考えだ。

東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催の「ツーリズムエキスポジャパン2024」(会期=26~29日)。ヤマハ発は26、27日、7人乗りの低速モビリティを並べた。これまで自治体関連のイベントで展示したことはあったが、観光関連は初の試み。同社の担当者は「このイベントには商談目的の来場者も多く、車両をしっかりとアピールしたい」との狙いを語る。

観光関連での導入拡大につなげるための仕掛けも用意した。同社のブースに仮装現実(VR)を体験できる機器を設置。世界遺産である島根県の石見銀山を、グリーンスローモビリティで巡る疑似体験ができる。低速で走るグリーンスローモビリティは、乗車しながら周囲の景色をゆっくりと見られることが魅力の一つ。VRで実体験に近い雰囲気を演出し、興味を持つ自治体や事業者の増加につなげる。

グリーンスローモビリティの可能性を追求する動きは、広がっている。これまで、公共交通機関が限られる地方の住民の足としての運行が目立っていたが、都市部でも導入を検討するところが出てきた。

東京都杉並区もそうした自治体の一つ。JR荻窪駅の南側地域で5~8月に実証実験を実施。住民の反応がおおむね良好だったため、11月から定期運行を始める予定だ。

新たな車両を開発するメーカーもある。小型電気自動車(EV)などを手掛けるタジマモーターコーポレーション(浅井秋彦社長、東京都中野区)は今夏、新型「NAO2」を発表。容量18.8㌔㍗時の駆動用電池を搭載し、満充電で最長120㌔㍍の走行が可能。8人乗りと6人乗りの2タイプを用意しており、観光地やテーマパークなどでの利用を想定しているという。

ただ、グリーンスローモビリティが国内に根付くには、事業の継続性を確保することが必要だ。国土交通省によると、18年から23年3月までに、全国130カ所で走行実績があった。このうち、その後も運行している地域は38カ所にとどまる。公共性が高い側面もあり、採算を取ることが難しいのが一因とみられる。一方、「移動困難者は増加しており、低速モビリティのニーズは確実にある」(ヤマハ発の担当者)のも事実。比較的、運賃収入を得やすい観光需要の開拓などを含めて、持続可能なビジネスモデルの模索が今後も続きそうだ。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞9月28日掲載