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2024年9月27日

スズキ パナソニックと「モペット」共同開発、原付一種の代替に

スズキが、ペダル付き原動機付き自転車(モペット)を開発している。排気量50cc以下の原付一種の代替として提案する狙いだ。原付一種は2025年11月から新たな排ガス規制が導入されるため、適合に向けた開発コストなどがかさむ。このため同社は環境対応を含め、モペットを原付一種に代わる新たな近距離移動のモビリティの一つとして位置付ける。一方で、モペットは交通ルールなど使われ方の問題も多く、ユーザー側の意識改革なども並行して取り組む必要がある。

二輪車の保有台数は、コロナ禍で需要が増加したものの、2022年の保有台数は1980年比で82.8%減の40万5201台。原付一種の割合では、1980年は8割を超えていたが、2022年は4割にまで低下している。とはいえ、通勤や通学など「日常の足」として二輪車で最も活用されている車両区分であることには変わりない。

原付一種のニーズは残るとして、スズキがモペット開発でこだわるのが、「移動距離10㌔㍍」での活用だ。従来のエンジンを搭載する原付一種に代わり、より環境に配慮したモビリティとしてモペットに着目した。車両は、パナソニックサイクルテック(稲毛敏明社長、大阪府柏原市)とともに開発。パナソニックサイクルテックが車両と制御の開発を担い、スズキが諸元の決定や品質の基準とテストを行う。

今回開発したモペットには、パナソニックサイクルテックの電動アシスト自転車に搭載している定格出力250㍗のモーターと、容量16㌂時のバッテリーを採用。1充電当たりの航続距離は約20㌔㍍だ。主要部品を電動アシスト自転車と共通化してコストを抑えた。

また、小型モーターと車体フレームにアルミニウムを用いたことで、車両重量は約23㌔㌘(プロトタイプ値)で、スズキが掲げるものづくりの考え方「小・少・軽・短・美」を具現化した。福井大介チーフエンジニアは「スクーターは70㌔㌘ほどで、倒れてしまうと起こすのが大変。軽量なモペットを実現したことで高齢者でも起こすことができる」と話す。今後は、モーター制御や灯火類などを見直して走行性能の向上やコスト低減を図る。

現時点で価格や具体的な商品化の次期は未定だが、スズキとしては原付一種の新たな排ガス規制が導入される25年11月までに市場投入したい考えだ。

ただ、モペットには課題も残る。利用者が増えるとともに近年では交通違反が社会問題となっている。警察庁によると、23年のモペットによる人身交通事故件数は22年比で2倍以上の57件、検挙件数は同約3.6倍の345件に上る。最も多い違反は無免許で111件だった。モペットは原付一種のため、ペダルのみで走行する場合でも免許が必要で、車道を走行しなければいけないが、無免許で歩道を走行するケースが後を絶たない。ユーザーが正しい認識を持って乗ることが求められている。

モペットを安全に使うためには「多くの人に原付一種と認識されることが必要」と福井チーフエンジニアも強調する。見た目は自転車だが、二段階右折など交通ルールは原付一種と変わらない。また、自動車側が原付一種と認識せずに事故など危険な目に遭うケースもあるという。

メイド・イン・ジャパンで、自動車と自転車の大手企業がタッグを組み開発するモペット。原付一種に代わる移動手段として普及させるためには、モペットに対する正しい認識の浸透と、ユーザーの安全意識の醸成といった環境整備が急務となる。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞9月21日掲載