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2024年8月28日

EV充電器、普及のカギは「集合住宅」 関連事業者サービス強化

集合住宅への電気自動車(EV)用充電器の普及に向けて充電サービス事業者が多様な施策を打ち出している。普通充電器だけではなく、高出力の急速充電器を設置したり、住民向けのEV試乗会を開いたりしている。充電環境の拡充に加え、住民のEVへの関心を高めることで利用者の拡大につなげる狙いだ。集合住宅に充電器を導入する際は住民全体の合意形成が必要なため、戸建て住宅と比べて設置のハードルが高い。ただ、国内の住宅の4割が集合住宅であり、潜在需要は大きい。各事業者は今後も、集合住宅向けの充電サービスの強化に力を入れていく考えだ。

総務省が4月に公表した2023年の「住宅・土地統計調査」によると、総数が5564万4800戸のうち、マンションなど共同住宅が2492万300戸だった。割合にして44.8%で、前回調査に比べて1.3㌽伸びた。EVへの感度が高いユーザーは都市部に比較的多く、集合住宅の割合も高まる傾向にある。このため、EV関連サービスを開拓していくためには、いかに集合住宅を攻略できるかが、重要な鍵を握っている。

自社の充電サービスと電動車を一体で普及させようとしているのが、ユビ電(山口典男社長、東京都港区)だ。同社は8月上旬、同社のサービス「ウィーチャージ」を導入した東京都八王子市内のマンションの住民を対象に、EVやプラグインハイブリッド車(PHV)の試乗会を開いた。住民にEVの走行性能や使い勝手を体感させ、電動車の購入を後押し。その上で、自社の充電サービスの利用促進を狙った施策だ。

特に、今回は来年1月に充電器を全274区画の駐車場に導入予定の集合住宅で開いた。住民にとって、車両購入に十分な時間があるタイミングで行うことで、設置後すぐに一定の充電器利用が見込める。実際、真剣に検討しているユーザーも目立ち、当日は充電方法や専用アプリの使い方を尋ねる住民が多かった。白石辰郎最高執行責任者(COO)は、「EVに触れる機会を増やせば、われわれのサービスの普及にもつながる」と今後もこうしたアプローチを続けていく考えだ。

集合住宅への高性能充電サービスの導入を始めたのが、パワーエックス(伊藤正裕社長、東京都港区)だ。都内の大規模マンションで7月、最大出力150㌔㍗の急速充電器1基を稼働した。住宅では基礎充電の考え方から普通充電器の導入が一般的だが、集合住宅の駐車場すべてに設置するにはコストが過大になる。そこで、短時間で一定量の充電が可能な急速充電器を、住民で共用しようというものだ。EVに乗らない住民との公平性を担保するため、充電量に応じた従量課金制としたという。

また、テラチャージ(徳重徹社長、東京都港区)は5月、旭化成不動産レジデンス(高橋謙治社長、東京都千代田区)との業務提携を発表した。同社が管理している約12万戸の賃貸マンションに充電器を設置していく狙いだ。

既設の分譲マンションなどでは、充電器の導入に管理組合や理事会の同意が必要となる。ここでの合意形成のサポートを行う充電サービス事業者もいる。各社がこうした手間をいとわないのは、集合住宅への充電器の設置がまだ始まったばかりで、需要開拓の余地が大きいからだ。うまくいけば、大規模マンションで大口の契約を獲得できるチャンスもある。今後も集合住宅へのサービスを提案する事業者が増えていきそうだ。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞8月10日掲載