新興国で生産した車を国内で売り出す動きが広がっている。スズキは今秋、インド生産の「フロンクス」を発売する。ホンダや三菱自動車も輸入モデルをラインアップに加えた。過去には不発に終わった輸入モデルも多いが、今では海外工場の生産技術も高まった。円安の逆風があるとはいえ、価格競争力の高さも健在だ。各社は海外拠点を有効活用し、日本の商品構成を充実させている。
スズキのフロンクスはクーペタイプのSUV。インドのグジャラート工場で生産し、日本で発売する。スズキは将来的にインド生産の電気自動車(EV)や「ジムニー」の5ドア仕様も日本に導入する計画だ。ホンダは2023年度下期に中国生産の「オデッセイ」、タイ生産の「アコード」、インド生産の「WR―V」を国内に導入した。三菱自が2月に発売した「トライトン」もタイ生産だ。
海外生産車はこれまでもあった。スズキは16年に「バレーノ」を乗用車として初めてインドから輸入販売した実績があるほか、日産自動車の「マーチ」や三菱自の「ミラージュ」もタイで生産していたモデルだ。ただ、いずれも国内でヒットしたとは言い難く、すでに生産を終了した。目の肥えた日本のユーザーにとって、品質面や装備の充実度が物足りなかったこともある。
WR―Vの開発責任者であるホンダの金子宗嗣氏は「新型車は寄居工場よりも後に立ち上げたホンダ最新鋭の工場で作っている」と品質面で自信をみせる。日本に陸揚げした後の品質検査拠点を新設するなど万全の体制をとる。スズキ・フロンクスの森田祐司チーフエンジニアも工場設備の進化に加え「砂漠地帯の多いインドで輸送時の汚れを防ぐため、マスキングテープの貼り方も変えている」という。バレーノの経験も踏まえた細かい工夫で品質改善に余念がないようだ。
新車価格がインフレや法規適合の影響などで上昇し続ける中、手頃な価格で売り出せることも新興国モデルの強みだ。WR―Vは209万8千円からという価格を実現した。先進運転支援システム(ADAS)など日本向けに追加した装備のコスト上昇分は、他の新興国モデルとの部品共通化で相殺したという。
もっとも海外生産車が増えているのは、国内市場の縮小で日本専売車の採算が合いにくくなった事情もある。販売現場からは「国内専売車が欲しい」という声も聞かれるが、メーカー側としては、国内外で異なるニーズを巧みに調和させたグローバルモデルを増やし、日本での販売台数を保っていきたい考えだ。