2024年6月26日
特定小型モビリティの現在地 道交法改正から1年
昨年7月の道路交通法の改正から間もなく1年。電動キックボードなどの「特定小型原動機付自転車」(特定小型)が免許不要で公道を走行できるようになり、都市部で見かけることも多くなった。当初はルール違反の報道が多かった特定小型だが、特に短距離の移動需要に応えるモビリティとして、自治体などが活用に熱い視線を送る。
改正道交法は、16歳以上であれば免許不要で公道での特定小型の運転を可能とした。制限速度は時速20㌔㍍以下とし、歩道を走る場合は「特例特定小型」として時速6㌔㍍以下で走行する必要がある。乗用車と同様に飲酒運転や車道の逆走、また2人乗りも禁じられ、罰則も定めている。
特定小型のシェアリングサービスの最大手がLuup(ループ、岡井大輝社長、東京都千代田区)だ。東京都や大阪府など全10都市で特定小型のシェアリングサービスを展開している。今年6月からはサービスの提供範囲を広げ、郊外での移動の課題の解決に取り組む考えだ。
シェアリングサービスを広げていく上でポイントとなるのが持続的に展開するための収益性だ。同社は「いかに安全性を保った状態で採算を合わせるか」(岡井社長)に重点を置いているといい、エリアの拡大に当たって人件費のかかる営業活動はせず、問い合わせベースで展開していく。岡井社長は、一般的には利益が出にくいシェアリングサービスだが、その理由として「『規模の経済』のメリットを得られるまで大きくなっていない」と話す。一方、同社は都市部では台数不足を指摘されるほど需要が高まっており、特定小型のシェアリングサービスでは「事実上の標準」となる手応えを感じているという。
同社は利用者に対し、警察が監修した交通ルールのテストの実施を求めるなど、安全な利用に向けた対策に取り組む。交通違反者には利用を制限するほか、交通量の多い道路を避けたルートを推奨する「ナビ機能」も提供を始めた。一方、利用者は増加しており、中でも法令順守に向けた啓発がどこまで浸透するかが課題だ。警察の取り締まりなどにも協力する考えだが、特定小型の安全性は利用者の意識によるため、常に懸念材料となる。
安全な交通環境をつくるためには、特定小型に対する歩行者や自動車側の理解も必要となる。岡井社長は「新たなモビリティがどんな挙動をすべきか、社会全体で知る必要がある。そのためには自治体と警察との協力が必須だ」と話す。自転車の通行帯が不足していたり、路上駐車を避けた結果、歩道に時速6㌔㍍以上で入り、交通違反となったケースもあるという。同社は事業展開先の企業や自治体、警察と協議し、各地域の交通事情も把握した上でサービスを始める方針だ。
同社は電動キックボードと電動アシスト自転車を取り扱うが、郊外へのサービス展開に当たり、高齢者の利用も想定して三輪・四輪モビリティを今後導入する考えだ。人口減によりバスやタクシーの存続が難しい地域や、訪れる観光客に対して移動手段が不足しているエリアなど、活用を模索する自治体や企業は少なくない。数年後、特定小型が全国で「ラストワンマイル」の移動手段として定着できるか。現状は期待と課題が入り交じる。
カテゴリー | 白書・意見書・刊行物 |
---|---|
対象者 | 一般,自動車業界 |
日刊自動車新聞6月22日掲載