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2024年6月24日

「クルマを売らないショールーム」 輸入車販売業界で増加

輸入車販売業界で「クルマを販売しないショールーム」が増えている。企業アイデンティティーの方向性や企業メッセージを明確に打ち出すことで、目指しているブランドイメージの浸透を図り、顧客の囲い込みや、新規客開拓につなげるのが狙いだ。

ビー・エム・ダブリュー(BMWジャパン、長谷川正敏社長、東京都港区)は、再開発による新しい街づくりが進む東京・港区の「麻布台ヒルズ」の一角に、クルマを販売しない常設型のブランド発信拠点「フロイデ・バイ・BMW」を1日に開設した。コンセプトは「ブランドの世界観の訴求や体験型サービスの充実」(長谷川社長)で、ドイツのBMWグループの支援も受けて〝BMWらしさ〟を体験できる拠点を目指した。

BMWジャパンでは2023年にJR原宿駅前や、東京・港区の表参道エリアのイベントスペースに期間限定のブランド発信拠点を開設したケースはあったものの、常設は初めてのことで「世界でも珍しい」という。

空間デザインはBMWのデザイン子会社のデザインワークスが担当した。BMWジャパンのBMWブランド・マネジメント・ディビジョンの宇賀英夫シニア・マネージャーによると「デザインワークスが設計に関わった拠点は国内では初めて」だ。

BMW車にちなんだインテリアやオブジェを随所に配置した。飲食ができる「カフェアンドバーB」には、BMW車の特徴である「キドニーグリル」のデザインを採り入れたシャンデリアが飾ってある。メニューも日本とドイツの食文化を融合した料理を提供する。

1階と2階をつなぐ螺旋階段の中心には「BMWのデザイン言語を具現化した芸術作品」を配置した。高さ約8㍍のこの作品は拠点のシンボルでもある。

BMWジャパンが常設型ブランド発信拠点を開設したのは、輸入車ユーザーの「ニーズが多様化しており、それに応える必要がある」(宇賀シニア・マネージャー)ためだ。上級モデルのユーザーは、車だけを求めているわけでなく、サービスや商品を通じて得られる「独特の世界観を体験することを求めている」という。

こうしたニーズに対応するため、2階には完全予約制の日本料理店を設けた。これも「ここでしか得られない体験を提供する」(宇賀シニア・マネージャー)ためだ。また、VIPユーザー用のラウンジや、BMWのクラフトマンシップを体験できるスペースも設けてある。今後、他社とのコラボレーションした企画も予定している。

BMWジャパンの長谷川社長は「(この拠点が)BMWの聖地と呼ばれるようにしていきたい」とし、BMWの日本でのブランド戦略を展開していく方針を示す。

上級輸入車ブランドを中心に、こうした新車を販売しないショールームを東京都心に設けて、ブランドのイメージアップを図る取り組みは相次いでいる。

ボルボ・カー・ジャパン(VCJ、不動奈緒美社長、東京都港区)は23年春に電気自動車(EV)専用のブランド発信拠点を東京・南青山に開設した。BMWのストアと同様、新車販売はせず、ボルボが目指すサステイナブルな世界観を訴求する。

新車を販売しないショールームに先駆的に取り組んだのがメルセデス・ベンツ日本(MBJ、上野金太郎社長、千葉市美浜区)だ。新車を販売しないブランド発信拠点「メルセデス・ミー」を、東京・銀座に期間限定で設けた。現在は常設施設を東京・六本木や大阪などに展開している。

クルマを販売しない店舗の課題は継続的な集客だ。クルマを販売しないため、見込み客を呼び込みづらい。サービス入庫もないため、リピーターを確保するハードルも高いと見られる。輸入車購買層が多く住む東京都心部に設けることから、拠点運営コスト負担は重いものの、車販やアフターサービスなど、直接的な売り上げはない。それでも拠点がブランドのイメージアップや定着に貢献して、付加価値の高いビジネスや、将来の顧客獲得につなげるための先行投資となることを各社は期待している。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞6月20日掲載