世界的にカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)の取り組みが求められる中、自動車用シートを手がけるメーカー各社が植物由来の素材の活用やリサイクル性を考慮した製品開発を急ピッチで進めている。22日から24日までパシフィコ横浜(横浜市西区)で開催された「人とくるまのテクノロジー展2024横浜」ではこうした取り組みが相次いで紹介され、実用化に向けて前進していることが示された。

今回の展示会では、環境負荷軽減につながるさまざまな自動車関連技術が紹介されたが、中でも目に付いたのがシート関連だ。フォルヴィア傘下のフォルシアやデルタ工業(藤田健社長、広島県府中町)、ニッパツなどが植物性由来の素材などを活用したシートを展示した。

フォルシアが展示した「サステイナブルシートE3」は、カバーがPET素材単一で作られており、リサイクルしやすい。金属部品は水素を燃料に製錬した「グリーンマテリアル」を採用し、カーボンスチールの使用量を抑えた。材料を含めた製造時の二酸化炭素(CO2)排出量を削減しつつ、従来品とそん色ない品質、強度を持つシートの提供を目指す。担当者は「欧州ベースの技術を生かし競合他社よりも先行して製品開発に取り組む」としている。

マツダ向けシートを主に手がけるデルタ工業はシート重量と環境負荷の低減を両立する次世代シートを開発して参考出品した。シート内に使われる全てのウレタンをビーズ発泡品に置き換えた。バネの替わりに2Dネット材、表皮材とウレタンの間にはさみ込むスラブパッドの代替として3Dネット材を採用した。従来品比約2割軽くなるという。表皮材には植物由来の材料が約3割含まれる東レの「ウルトラスエード」を使用する。課題となるのはコストで「ビーズ発泡は若干増えるくらいだが3Dネットはこれまでの材料と比べて2倍になる」(担当者)。

ニッパツもリサイクルを考慮してバイオマス素材を利用するシートを参考出品した。トリムカバーはリサイクルしやすいポリエステル100%とし、クッションパッドには「バイオマスウレタンクッション」というバイオマス由来原料を35%配合した材料を使用する。カーボンニュートラルやサステナビリティの課題に対応するためのシートを開発する。

シート関連で環境負荷軽減に寄与する技術としてはトヨタ紡織がリサイクルした炭素繊維を一年草植物「ケナフ」の天然繊維と混ぜ、シートに活用する「リカーボンシェルシート」を出品した。ケナフによって炭素繊維使用量を減らし、材料を含む製造時のCO2排出量を低減できる。トポロジー最適化技術を適用することで強度を保ちながら材料使用量も低減する。

鉄フレームより重量を約2割軽くでき、CFRP(炭素繊維複合材料)シェルシートと比べて製造によるCO2排出量を半減できるという。リサイクル時の処理工程を減らすなどのコスト低減も図り、数年後の製品化を目指す。

さらにミドリオートレザー(松村不二夫社長、山形市)は、廃棄ココナッツ殻の繊維を約30%使用する表皮材「コイアーレ」を開発した。ココナッツの廃棄で発生するメタンガスの抑制や植物由来の素材を利用することで材料を含めた製造時のCO2排出量削減に寄与する。表皮材は自動車シートや内装材に使用可能な品質、耐久性を確保しているという。複数の自動車メーカーから引き合いもあり、数年後には実用化される可能性があるという。

乗員の姿勢を適切に支え、安全と快適な運転環境を提供するシート。カーボンニュートラルやサステナビリティへの対応が強く求められる一方で、コストとのバランスが課題となる。開発中の新技術が実用化されて実を結ぶのか、注目される。