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自動車産業インフォメーション

2024年5月28日

進化するドライバーモニタリングシステム 目指すは交通事故ゼロ

車内に取り付けられたカメラなどでドライバーの状態を検知し、異常があった場合は警告を出して路肩に停止―。事故防止には車外だけでなく乗員の状況変化を察知することも重要だ。その鍵を握る技術であるドライバーモニタリングシステム(DMS)は、自動車メーカーとサプライヤーが一丸となり性能向上に取り組んでいる。欧州では新車への搭載が義務化され、今後さらに普及する見通し。各社は安全性だけでなく利便性向上にもつなげる考えだが、プライバシーや情報保護の課題も残る。

昼下がり、郊外に伸びる片側1車線の高速道路を運転中、蓄積した疲れのせいか意識が遠のいた。視線は下に落ち、愛車のバンパーが中央分離帯のポール数本とぶつかっていた。約10年前の記者の実体験だ。対向車線に飛び出す前に目が覚めたことは幸運だった。

国連は2030年までに交通事故による死傷者を半減させる目標を掲げる。衝突被害軽減ブレーキなどの導入が不可欠であると同時に、事故防止にはドライバーの異常を早期に察知することも重要となる。

1月に米ラスベガスで開かれた世界最大のデジタル技術展示会「CES2024」では、サプライヤーがミラー組み込み型のDMSを提案した。米ジェンテックスはドライバーの頭部の位置や骨格、視線から、疲労度や脇見運転などを見極める。デモでは目線がどこに向いているかをモニター上に表示させ、目をつぶったりスマートフォンを操作したりすると警告が現れた。また、赤外線で微細な振動や呼吸を検知し、乳幼児の置き去りを防止する機能も開発している。

加マグナはアルコール検知機能を組み込んだDMSを開発している。赤外線センサーでドライバーの呼気中のアルコールを、カメラで瞳孔の状態や注意散漫度をそれぞれ検知する。米国では血中アルコール濃度が基準値以下であれば運転が可能だが、飲酒運転で毎年1万人以上が亡くなっている。そのためドライバーが「運転に適しているか」を判断するシステムの開発を進めている。

DMSの装着を義務化する動きもある。欧州は一般安全規則(GSR)で24年7月以降、すべての四輪以上の新型車は「先進運転注意喚起(ADDW)システム」を搭載することを定め、26年にはすべての新規登録車に規則が適用される予定だ。時速50㌔㍍以上で走行している場合、3.5秒以上ドライバーが視線を逸らすと警告を発する必要があるとしている。

すでにトヨタ自動車や日産自動車、ホンダをはじめとした各社は、ドライバーの異常を検知して自動停止するシステムを新型車から実用化している。同システムは大型バスから導入が始まり、今後はエントリーモデルの乗用車を含め、幅広い車種への普及が見込まれる。

技術の進化も続く。ホンダは人工知能(AI)を用いてドライバーの認知状態や周囲のリスクを判断し、シートの振動なども使って「ヒューマンエラーゼロ」を目指す技術を20年代後半に実用化する考えだ。

DMSの機能を用いてユーザーの利便性を高める試みも模索されている。すでに自動車メーカー各社はドライバーをカメラで認識し、座席位置を調整するといった機能を実用化している。さらにソニー・ホンダモビリティが26年の発売を予定する「アフィーラ」では、Bピラー内のカメラがユーザーを認識して自動でドアを開け、車内モニターやライトなどで出迎える。今後は、荷物を抱えている場合は後席ドアを開けるといった進化も想定している。

正確性や利便性を高めるにはさまざまなデータを活用する必要がある。同時にプライバシーを懸念する声もある。マツダはDMSのデータの取り扱いについて、車両故障診断や研究開発目的で使用する可能性はあるものの、「個人情報(氏名・性別など)は記録しない」としている。他にも、車載通信機能を悪用したサイバー攻撃に備える必要もある。機能向上とユーザーの安心担保の両面でセキュリティー対策が欠かせない。

5月中旬に首都高速道路で起きたタクシーの横転事故は、運転手の病死が原因の可能性があるという。世界で毎分2人以上が交通事故で死亡している現状に歯止めをかけるために、各社はDMSの展開と進化を続けていく。

カテゴリー 交通安全
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞5月27日掲載