会員向けクルマ
biz

INFORMATIONクルマの情報館

自動車産業インフォメーション

2024年5月17日

商用車・架装メーカー各社 人手不足・カーボンニュートラルに新提案

「カーボンニュートラル(温室効果ガス実質排出ゼロ)対応」と「人手不足」という物流の社会課題の解消に向けて、商用車・架装メーカー各社が製品や技術開発を本格化している。電気トラック(EVトラック)や自動運転技術がその代表例だ。9日から11日まで、パシフィコ横浜(横浜市西区)で開催された「ジャパントラックショー2024」にはトラック運送事業者などが6万人以上が来場、社会課題の解決に向けた物流事業者の関心の高さが示された。

今回のトラックショーでは、大手商用車メーカー3社が市場投入している量産型EVトラックを全面的にアピールした。三菱ふそうトラック・バスの「eキャンター」、いすゞ自動車の「エルフEV」、日野自動車の「デュトロZEV」の3台だ。

三菱ふそうによると、eキャンターの先代モデルの販売台数は年間数十台規模だったが、使い勝手を向上し、航続距離を伸ばすなど、フルモデルチェンジした結果、23年に販売台数が838台に増えた。24年に入ってからも1~3月までの3カ月間で265台を販売した。担当者は「想定を上回る反響だ」と手ごたえを示す。EVトラックの販売台数を公表していないいすゞや日野も、数百台規模の受注を得ているという。

小型EVトラックは三菱ふそうが長距離モデル、いすゞがショートホイールベース、日野がウオークスルー仕様と、さまざまなタイプを設定している。EVトラックは航続距離が短いという制約があるものの、1日当たりの航続距離が一定のルート配送用などには適している。多様な用途のEVトラックを設定し、各社が需要を手探りで開拓している状況だ。

事業活動でのカーボンニュートラル対応を迫られるトラック物流事業者のEVトラックに対する関心は高まっている。ただ、商用車メーカーがEVトラックを市場投入しただけでは、バン型や平ボディなど、多くの仕様を求める商用車の顧客ニーズに対応できない。EVトラックの普及に向けて、重要な役割を担うのが架装メーカーの存在だ。

レッカー車を手がけるヤマグチレッカー(山口喜久雄代表、横浜市金沢区)は、世界初の電気小型レッカー車(EVレッカー車)を開発して、今回のトラックショーで初公開した。EVレッカー車「E―レッカー」はシャシーに三菱ふそうトラック・バスのeキャンターを採用し、米ミラーインダストリーズ製レッカーをヤマグチレッカーが装備して開発した。ヤマグチレッカーの担当者は「高い静粛性によって夜間作業時の騒音問題の解消につながる」と電動車ならではの効果をアピールする。ベースのEVトラックの価格が高いため、今後は水素エンジン車やハイブリッド車に対応するレッカー車の開発も検討するという。

パブコ(アフマドヴ・ケナン社長、神奈川県海老名市)は、世界初となるフル電動ウイング開閉装置を採用した大型ウイングボディー「エクシオウイングプロエディション」をトラックショーに展示した。ウイングボディーの開閉装置は油圧式が主流だが、ユーザーからは油漏れを懸念する声があったという。

コア技術となるフル電動ウイング開閉装置「電動チェーンユニット搭載ウイング開閉装置」は、椿本チエインのアーチ形状に伸縮するアークチェーンを用いた「アークチェーンアクチュエータ」を採用した。油圧ユニットや配管が不要で、油漏れの懸念もなくなるのに加え、メンテナンスも容易になるという。油圧式よりも消費電力が低く、開閉のスピードを自在にコントロールできるメリットもある。

商用車メーカーも単にEVトラックを市場投入するだけでなく、事業者が導入しやすいようメリットを実感できるサービスを展開している。その一つが顧客の用途に最適化した充電器の設置計画や電力プランなどの提案だ。EVトラックを普及する環境を整備するため、日野と関西電力が設立した共同出資会社であるキューブリンクスがこうしたサービスを包括的に提供している。同社の桐明幹社長は「(EV市場が)今は多少の減速感があるものの、EVに対する顧客のニーズは高い」という。

内燃機関車の販売を長年担ってきたディーラーがEVの購入者に、充電器や電力プランなどを提案することは難しい。三菱ふそうと三菱商事、三菱自動車は今年8月、オンラインでEV関連サービスを網羅的に提供するプラットフォーム「イブニオンプレイス」の提供を開始する。EV販売と同時に、充電に関するさまざまな不安をなくすことで、初めてのEV購入に対する事業者の心理的なハードルを下げる狙いだ。

一方、プロドライバーの残業規制が強化され、物流需要に対応できなくなる物流の2024年問題が社会問題化する中、今回のトラックショーで商用車メーカー各社がドライバー不足に対応するツールをアピールしていた。三菱ふそうは配車計画の管理システム「ワイズシステムズ」を展示した。効率的な配送計画を策定できるツールで、法規に対応しながら限られたドライバーを最大限活用する。輸送能力不足に加え「配車計画を策定する人材も不足している事業者の課題にもこたえられる」(担当者)という。

さらに、ドライバー不足問題の解消に向けて将来的に期待されているのが自動運転技術の実用化だ。いすゞは27年度にも自動運転トラックサービスを実現する計画を掲げる。専門の組織を立ち上げて自動運転技術の開発と事業化を検討する。

今回のトラックショーでは、三菱ふそうが自動運転システムを搭載したeキャンターベースのごみ収集車による実証実験の成果を発表した。ごみを収集する作業員にごみ収集車が自動追従する技術で「(作業員の)負担軽減につながる効果を確認できた」(木下正昭マネージャー)という。

警察庁は大型・中型トラックに「AT(オートマチックトランスミッション)限定免許」を設定する方針だ。クラッチ操作が不要な「AMT仕様」の免許が設定されると、商用車メーカーは大型・中型トラックにAMT仕様を設定しやすくなる。そしてAMT仕様の大・中型トラックには、自動運転システムが搭載できるため、自動運転技術の実用化が進むことが見込まれる。

東京商工リサーチがまとめた23年の道路貨物運送業の倒産件数は328件(同32・2%増)で、9年ぶりに300件を超えた。燃料コストの高騰や人件費の高騰が運送事業者の経営の重しとなっている。商用車・架装メーカーは、市場のニーズに対応した製品や技術・サービスの開発が強く求められる。

カテゴリー 展示会・講演会
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞5月16日掲載