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2024年3月12日

「働くクルマ」電動化でメリット 災害時の移動電源としても

〝働くクルマ〟の電動化がジワリと進む。ゴミ収集や建設作業時の騒音の低減に加え、作業に必要な電力を取り出せる利点もある。本格普及には価格の引き下げや性能の改善も欠かせないが、架装メーカー各社は環境対応に「プラスα(アルファ)」の価値を加え、市場や顧客にアピールしていく。

働くクルマの電動化と言えば、電気バス(EVバス)や電気トラック(EVトラック)が思い浮かぶ。しかし、近年は電動塵芥車(EV塵芥車)なども各社から登場して実際に使用されている。例えば、極東開発工業がEVトラックをベースに開発したEV塵芥車の新「eパッカー」は、廃棄物収集運搬業者のティエラル(杉田直人社長、香川県高松市)が採用した。

ごみ収集は早朝や夜間の作業も多く、自治体や業者へ騒音などに対する苦情が寄せられるケースもある。EV塵芥車は走行音が静かなことはもちろん、ごみを圧縮する際も騒音が小さい。極東開発工業の車両は、エンジン駆動車に対して騒音を1割ほど小さくできるという。1回のフル充電で約200㌔㍍(国土交通省審査値)走る。

EV塵芥車は極東開発工業のほか、モリタエコノス(玉置敏之社長、兵庫県三田市)が「EV回転式塵芥収集車eパックマスター」を手がけるほか、新明和工業などもラインアップしている。

建設機械の電動化も始まっている。大手クレーンメーカーのタダノは、世界初の電動ラフテレーン(自走式)クレーン「EVOLT eGR―250N」(最大吊り上げ荷重25㌧)を発売した。最大出力97㌔㍗(132馬力)の駆動モーターを2基搭載し、重い車体を滑らかに加速させる。車載電池容量は合わせて226㌔㍗時。クレーン作業だけなら約11時間稼働し、走行だけなら約70㌔㍍の航続距離が得られる。

例えば現場との往復に約40㌔㍍を走った上で約5時間のクレーン作業ができる。ディーゼルエンジンの「GR―250N」と比べ、定常走行時の騒音は78 デシベル から71 デシベル 、クレーン作業時は104 デシベル から94 デシベル にそれぞれ下げられるという。稼働や走行時の二酸化炭素(CO2)排出量をゼロにするだけではなく、静粛性向上で建設現場の環境改善にも寄与すると見込む。

東京消防庁は、池袋消防署に日本初のEV救急車を配備した。日産自動車が欧州で販売する「NV400」がベースで、適合開発や架装はオートワークス京都が担った。容量33㌔㍗時/8㌔㍗時と2つのリチウムイオン電池を搭載しており、停電時や災害時には移動電源としても活用できる。救急隊員の負担を減らす電動ストレッチャーも備える。EVは騒音や振動が少ないため、患者や隊員、精密医療器具の輸送に適しているという。

消防車メーカー大手のモリタホールディングスは日本初の電動消防車を開発中で、近く市場投入する。EV専用の消火用ポンプを開発し、通常の消火活動に必要な2~3時間の放水ができる。電池を積んで車体が重くなった分は軽量部材の採用や構造の見直しなどで相殺し、従来車とほぼ同じ車重に仕上げた。

架装車の電動化は、乗用車や平ボディートラックなどと異なり、まだ始まったばかりだ。もともと少量多品種生産のためコスト削減のハードルが高く、過酷な使用環境に耐えるため、品質や耐久性をさらに高める必要もある。充電インフラの整備や公的な補助制度などの後押しも必要だろう。本格普及はまだ先のことだが、架装各社は付加価値をアピールして需要開拓を狙う。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞3月11日掲載