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2023年12月25日

タクシー不足対策に新サービス 一般ドライバーが担う地域の足

政府は、タクシー事業者が普通自動車免許の一般ドライバーと自家用車を活用した有償の運送サービスを提供できる新制度を創設する。タクシー不足が深刻な地域や時間帯に限定したもので、2024年4月の開始を目指す。運行管理、運送責任、車両整備管理などの責任主体はタクシー事業者が担い、運送サービスはタクシー事業の一環として位置付ける。新制度に基づき活用する自家用車の法定点検・車検や自動車保険のあり方は今後の重要な検討課題となる。これとは別に「ライドシェア」解禁に関する議論は継続し、24年6月までに結論を出す。

20日に開催されたデジタル行財政改革会議で、岸田文雄首相は「全国各地で深刻となっている地域交通の課題を踏まえ、ライドシェアの課題に対応し、地域の自家用車や一般ドライバーを活用した新たな運送サービスを来年4月から開始する。合わせてタクシー規制の合理化を進める」と表明した。

バス・タクシー事業者による輸送サービスの提供が困難な場合、一定の条件を満たした上で自治体やNPO法人などが移動手段確保の役割を担うことができる「自家用有償旅客運送制度」の見直しを年内から始め、各種交付金による財政支援などを行う考えも示した。タクシー事業者以外がライドシェア事業を行うことを位置付ける法制度については来年6月まで議論を行う。

政府が打ち出した〝移動の足〟の不足を解消するための施策は「地域の自家用車・ドライバーの活用」「自家用有償旅客運送制度の見直し」「タクシー規制の緩和」で構成される。

最大の目玉は、タクシー事業者の運行管理の下で、地域の一般ドライバーと自家用車を活用した運送サービスの提供を可能とする道路運送法第78条3号に基づく新制度を23年度内に創設することだ。

具体的には、都市部を含めてタクシー配車アプリデータを活用してタクシーが不足している「地域、時期、時間帯」を客観指標化し、「交通空白地」と見なす一定の基準を設ける。それに基づき、タクシー事業者が運送主体となって一般ドライバーと自家用車を活用し、アプリによる配車とタクシー運賃の収受が可能な運送サービスを提供することができる。

現在、タクシー事業者は第2種運転免許を持つドライバーを雇用している。自家用車の一般ドライバーの働き方については、安全の確保を前提に雇用契約に限らず検討する。タクシー事業者以外も新規参入できる環境整備も検討する。

新制度の設計には官民の連携が必要で時間も要する。まずは、配車アプリの全国普及と新制度を活用して働く一般ドライバー向けのアプリ開発も必要だ。また、国土交通省は安全確保と事故防止の観点から、自家用車であっても「タクシー会社が車両メンテナンスに関与していく制度設計にせざるを得ないと思う」(物流・自動車局旅客課)との考えだ。車検期限や自動車損害賠償責任(自賠責)保険などのあり方を、今後慎重に検討していく。

道路運送法第78条2号に定めた自家用有償旅客運送制度の大幅な見直しにも着手する。同制度には「交通空白地」または「福祉」で行う有償運送の2種類がある。現在、交通空白地における自家用有償旅客運送は、過疎地を中心に約570の自治体で総勢約670団体が運営している。今回、同制度の適用対象となる交通空白地に夜間などの時間帯の概念を追加し拡大する。

ドライバーに対する対価の目安も引き上げる。現在の「タクシー運賃の2分の1程度」を「タクシー運賃の約8割」にして、採算性の改善とドライバーの確保につなげていく。

自家用有償旅客運送を導入するためには、地域の公共交通会議で協議が整うことが必要と定められており、市町村、地域住民、地元の交通事業者、有識者などが参加している。協議には時間を要することが多く、一定期間を超えた場合には、導入の是非を首長が判断できるように見直しを図る。自家用有償旅客運送は自治体やNPO法人など非営利団体による実施に限るが、この実施主体を拡げて株式会社が参画できるようにする。ただし、運送の実施主体となる自治体などから受託して車両やドライバーを提供するなどの参画形態となる。

地方での広域医療化などの現状を踏まえて、運行区域を柔軟に設定できるようにする。複数の市町村が共同で地域公共交通会議を立ち上げて、広いエリアをカバーする自家用有償旅客運送の導入を促す。

現行の法令上では、地域の中でタクシー事業と自家用有償旅客運送は「両立しない」こととなっている。国交省は新制度の創設などを機に「タクシーと自家用有償旅客運送の共同運営の仕組み」の構築を模索する。自家用有償旅客運送の運賃問題をどうするかの課題などについて時間をかけて検討していきたい考えだ。

国交省はこれまでも、人手不足などで公共交通が不十分な地域には自家用有償旅客運送を活用して地域交通サービスを確保していくことが重要との考えの下に2月に検討会を設置して同制度の見直しなどを進めてきた。早急に展開できるものから順次、通達などを発出して実施している。

タクシー事業の規制緩和についても業界団体などと検討を重ねてきた。都市部など一定地域でタクシードライバーになるために必要な地理試験を廃止する省令改正のパブリックコメント(意見募集)を20日に開始した。このほかにもタクシードライバーになりやすい環境整備を進めている。

今年の通常国会と臨時国会でも話題となったライドシェアをめぐる議論。全面解禁については与野党内でも賛否が分かれ、業界団体や労働組合からは「ライドシェアありきの空論を捨て、真に移動困難解決の議論をすべき」などの声が上がる。政府は、プラットフォームサービス企業などタクシー事業者以外が行うライドシェアについては来年6月までに結論を出す予定で、同1月中旬から始まる通常国会や関連会議などでの推進派と慎重・反対派の議論の行方が注目される。

カテゴリー 会議・審議会・委員会
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞12月25日掲載