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自動車産業インフォメーション

2023年11月10日

自動車盗難、再び増加傾向 技術進化に合わせ手口も高度に

ある日突然、自動車盗難被害に遭って、愛車を失うユーザーが後を絶たない。警察庁の調査によると、全国で年間約5千件超の被害件数を数える。「CANインベーダー」などデジタル技術を使った新手の盗難手口が登場し、犯罪組織による盗難車両の不正な転売や輸出も少なくない。盗難防止機器などの予防対策の普及促進に加えて、当局による取り締まりの強化や厳罰化など、さらなる対策強化も求められる。

自動車盗難の防止対策については、行政機関と自動車関連団体で構成する「自動車盗難等の防止に関する官民合同プロジェクトチーム」が、ユーザーに対する防犯指導や啓発活動などに取り組んできた。

警察庁が6月に公表したデータによると、警察が被害発生を確認した2022年の自動車盗難認知件数は前年比10・7%増の5734件だった。ピーク時の03年(6万4223件)から大幅に減少している。検挙率は11年(33・2%)から緩やかに上昇して20年には57・7%となったものの、過去20年間のうち一時期を除いてほとんどの年が半数に満たないのが実情で、22年は45・6%だった。

自動車盗難の状況については、まず特定の地域で依然として多発していることが挙げられる。22年の自動車盗難認知件数の上位5府県(愛知県、大阪府、千葉県、埼玉県、茨城県)で、全体の約59%を占めている。また、盗難被害に遭った自動車の「4台に3台」が、盗難時にキーを抜いていたなど「キーなし」の状態だった。カーナビゲーションやナンバープレートの盗難被害も発生している。自動車盗難が発生した時間帯は「午後10時から午前9時」が最も多い。

日本損害保険協会(新納啓介会長)が3月にまとめた、20~22年に保険会社が行った盗難被害への保険金支払い状況に関する「第24回自動車盗難事故実態調査結果」によると、自動車本体の盗難被害は特定の車種に集中する傾向がある。

トヨタ「ランドクルーザー」「プリウス」「アルファード」「ハイエース」のほか、レクサス「LX」「RX」「LS」などが挙げられる。ランドクルーザーが自動車本体盗難全体に占める割合は、21年の13・6%から22年には16・9%と上昇している。アルファードも増加傾向にある。

警察庁は、自動車盗難の犯罪実態として▽犯罪グループが組織的に犯行に関与▽周囲を鉄壁などで囲まれたヤードなどで不正に解体▽海外に不正輸出▽他の自動車と合体させての販売・流通▽犯罪組織などの資金源化―などを指摘している。盗難された自動車は部品ごとに不正に解体・販売、輸出されることで、所有者に返還される率は現状25%程度にとどまり、車が所有者の元に戻ってくることは少ないのが現状だ。

こうした相次ぐ自動車盗難被害の現状に対し、市販用品業界でも価格帯や機能に応じてさまざまな盗難防止装置を市場投入している。ハンドルやタイヤの固定具に加え、近年は被害に遭った際の対応の迅速化なども念頭に機能を拡充している。

車に張り巡らされているコンピューターネットワークに専用の装置を使って侵入し、車を制御する電子制御ユニット(ECU)を乗っ取ってドアロック解除やエンジン始動を行うCANインベーダーなど新たな盗難手口が増える中、盗難防止装置においても通信技術の活用が進んでいる。車載機器に通信機能を搭載し、衝撃を検知した場合などにユーザーのスマートフォン(スマホ)などに通知する機能だ。車両の全地球測位システム(GPS)情報なども送信し、盗難被害に遭った自動車を追跡することも可能としている。

パイオニアなどでは、車載カメラに搭載した駐車時監視機能を活用して、リアルタイムの車両映像をユーザーが確認できる。オートバックスセブンは、ユーザーがスマホからエンジンの始動をコントロールできる盗難防止装置を販売している。降車時にシステムを起動させることで、万が一、自動車のロックが解除されても持ち逃げさせない仕組みだ。

ハンドルロックも効果的な盗難防犯装置だ。価格が比較的安価で入手しやすいことや、防犯対策が実際に目に見えて解除に時間を要することなどで盗難の抑止効果が期待できる。加藤電機(加藤学社長、愛知県半田市)では、LEDを活用することで視覚的な抑止効果を高めるなどの工夫を凝らす。こうした盗難防止装置は、単独よりも複数を組み合わせることで、より防犯効果を高めることができるという。

自動車盗難被害は、新車の長納期に伴う中古車価格の高騰や海外における日本車人気などから再び増加する可能性もある。組織的犯罪の厳罰化や抑止力強化、盗難防止装置の普及促進、盗難自動車や自動車部品の不正輸出防止対策など課題は山積みだ。海外で発見された盗難車の被害回復支援についても被害者団体などから早期実現の要望が挙がっており、自動車盗難対策に関する法改正や官民連携の取り組み強化が求められている。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞10月30日掲載