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2023年10月23日

自工会と部工会 仕入先との取引適正化へ「徹底プラン」策定

日本自動車工業会(自工会、豊田章男会長)、日本自動車部品工業会(部工会、有馬浩二会長)が連携し、仕入先との取引の適正化に向けて新たな取り組みを始めた。下請法の対象外の企業も含めて発注者側から価格交渉の受け入れを年1回以上示すなど「明示的な協議」を盛り込んだ「徹底プラン」を策定し、両団体会員への周知を始めた。従来は発注者側と受注者側の立場だった両団体がともに発注者側の視点で取引の適正化に取り組む。競争力の源泉である原価低減活動とのバランスは難しい課題だが、適正取引の推進でサプライチェーンを維持・強化していきたい考えだ。

徹底プラン自体は中小企業庁が今春、「下請Gメン」の調査結果を基に各業界団体に策定を要請したものだが、両団体は独自に明示的な協議の項目を盛り込むとともに協議の対象を下請法対象企業以外にも拡大。エネルギー費や労務費の高騰で仕入先の負担が増す中、価格転嫁に向けた交渉姿勢を明確に示し、取引の適正化を図る。

中企庁が実施する業界別の価格交渉や価格転嫁の実態調査(今年3月時点)によると自動車業界は全27業種中20位だった。エネルギー費などの急激な市況変化や半導体不足による生産変動に伴う取引先の経営悪化もきっかけに、大手を中心に価格転嫁を積極化しているが、裾野が広い業界だけにサプライチェーン全体に行き届いていないのが実情だ。昨年末には、公正取引委員会の緊急調査でデンソーや豊田自動織機が価格転嫁に消極的な企業として公表された。

両団体はまず、自工会14社をはじめ、ティアの上層から明示的な協議を徹底し、価格転嫁の循環をティアの下層へと伝播させていく考えだ。

ただ、その道のりは険しい。ホンダはこのほど価格転嫁の要望を聞き取るため、仕入先500社にアンケートを配布したが、自工会調達副部会長でホンダのサプライチェーン購買統括部調達企画部の古澤隆之参与は「最初の段階で回答が得られたのは3割だった」という。

発注先が手を差し伸べても仕入先の失注への不安は簡単に拭えない。ホンダは再度、個別に連絡し、価格転嫁の要望がない企業も含めて500社とのコミュニケーションを取るに至った。サプライチェーン全体への波及はこうした地道な取り組みの繰り返しの先にある。

一方、自動車メーカーや大手部品メーカーの調達姿勢を広く発信するため、部工会主導で産業集積地でのセミナーも始めた。地元の商工会議所の会員も対象にしており、3月に実施した群馬県太田市や今月実施した静岡県浜松市のセミナーには、普段は自動車メーカーとの接点がないティア3以降の部品メーカーも参加。浜松のセミナー参加者からは「いろいろとやることがあって、どこに何を相談すればいいのか分からない」と現状を訴える切実な声も聞かれた。

価格転嫁をはじめとする取引の適正化に向けてギアを上げた自工会と部工会だが、仕入先との原価のつくり込みはこれまで日本の自動車産業の競争力の源泉になってきただけに発注者と受注者の間で適正な価格を見出すのは難しい。原価低減の手が緩めば、日本の自動車メーカーがシェアを一気に落とした中国だけでなくグローバルでの競争に勝てなくなる。受注者側のサプライヤーにとっても競争力が低下すればカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)などで競争環境が激しくなる中で生き残れない。

トヨタ自動車の調達副本部長の加藤貴己自工会調達部会長は「グローバルでの競争力と取引の適正化を両輪で進めなければいけない。まだ緒に就いたところだ」と現状認識を示す。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞10月20日掲載