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2023年10月11日

自動車メーカー・大手サプライヤー 工業高校で技能職確保に力

自動車メーカーや大手サプライヤーが生産現場を担う技能職を確保するため、工業高校への求人を増やしている。都内のある工業高校の校長は「以前はなかったメーカーからの求人が、2年ほど前からくるようになった」と明かす。定期的に求人があるメーカーも「募集人数が増えた」という。給与や福利厚生など待遇が良いメーカー各社は生徒にも人気で、各校は歓迎ムードだ。

さらに、自動車メーカーへの道が開けている点を、進路を選択している中学生やその保護者に訴える高校も目立ってきた。大手企業への就職実績を切り札に自校の魅力を高め、入学促進につなげる考えだ。

自動車メーカーや大手サプライヤーが技能職の確保に力を入れる背景には、社会全体に広がる人手不足が一因だ。少子高齢化の中で思うように人材の確保が進まない中、足元では一時の供給制約からの挽回に迫られており、生産現場の増員は喫緊の課題だ。実際、自動車メーカー14社は2023年4月入社の採用で、内8社が技能職の採用数を前年よりも増やした。

さらに、トヨタ自動車は前年比約5割増の914人を雇用するなど、その規模も高まっていることが分かる。工具や生産設備への知見がある工業高校生は早期の戦力化が見込め、採用に力を入れているとみられる。

工業高校側も大手メーカーの求人に対し、積極的に応じている。都立六郷工科高校(大田区)の福田健昌統括校長は最近の進路の状況について、「自動車整備を専攻する生徒の多くはメーカーに就職している」と説明する。同校の「オートモビル工学科」は国家三級自動車整備士の資格取得を目指せるが、就職先の一覧には整備事業者だけではなく、トヨタや日産自動車、いすゞ自動車、三菱ふそうトラック・バスなども並んでいる。

福田統括校長は「複数の生徒の採用に積極的なメーカーも多くなった」とし、「電気や機械など、自動車系以外の学科からも受け入れたいとの声も増えた」としている。

都立墨田工科高校(古藤一弘校長、江東区)も、メーカー各社に多くの卒業生を送り出している。生産ラインを担う職種で就職するケースだけではなく、一部のメーカーにある企業内訓練校に進んでより高度な技能や知識を学ぶことを希望する生徒も居るという。

自動車メーカーや大手サプライヤーへの就職の可能性が広がることは、生徒の将来だけではなく、工業高校の運営面でのメリットにもなっている。墨田工科高校は中学生や保護者向けの学校説明会で、こうしたメーカー各社への就職実績をアピールしている。日本経済を支える自動車産業の中核企業に入れるチャンスに、参加者から好意的な反応が目立つという。実際、「自動車科」の入試倍率は全4学科の中で最も高いといい、特に推薦入試では約2倍に上るほどだ。

六郷工科高校も「工業高校の卒業生には魅力的な進路が多くあることを伝えることが大切」(福田統括校長)とし、自動車メーカーなどで働く卒業生と、在学生が交流する機会を設ける取り組みにも力を入れる考えだ。

メーカー志向は生徒や保護者の口コミでも広がっている。例えば、六郷工科高校を3月に卒業した女子生徒は、トヨタに就職した。その生徒は両親がフィリピン出身だったが、周囲のコミュニティーで「六郷工科に行けばトヨタに入れる」と話題になっているという。また、メーカーに就職した卒業生が在学中に入っていた部活動の後輩との交流で、その後輩もメーカーを志望するようになるケースもある。

最近の傾向について、首都圏のある工業高校の校長は「一部の名門校だけではなく、工業高校全体にメーカー志向が広がりつつあるようだ」と指摘している。ある工業高校では、授業以外に行っている国家三級資格の勉強会などへの参加を辞退する生徒も出ているという。自動車関連の職を目指す生徒も一定数いるためとみられるが、この傾向が加速すれば整備士離れにつながる可能性がある。

また、メーカーの技能職は給与や福利厚生が手厚く、安定性も高いとされる。一方で昼夜交代での勤務がある場合もある。メーカー側も働き方改革を進めているが、決して負担が軽い職種ではないのも事実。入社後すぐに離職するようなミスマッチを防ぐためにも、工業高校側には生徒一人ひとりの希望や適性に配慮した進路指導が、引き続き求められそうだ。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 中高生,自動車業界

日刊自動車新聞10月7日掲載