会員向けクルマ
biz

INFORMATIONクルマの情報館

自動車産業インフォメーション

2023年9月29日

EV交換式電池 カギ握る規格統一、充電待ち時間なく普及に期待

交換式電池を用いる電気自動車(EV)の開発や普及が進む。課題の一つである充電待ち時間がなく、車体を販売し、電池をリースやサブスクリプション(定額利用)で提供するなど事業形態も柔軟だ。ただ、電池規格の統一や電池交換ステーション(ST)事業の確立といったハードルもある。技術、事業モデルの両面で今後が注目される。

交換式電池が最初に注目を集めたのは2000年代後半。イスラエルのスタートアップ、ベタープレイスがこの構想を提唱し、資金を集めて日本を含む世界で実証をスタートさせた。EVの充電時間を逆手にとった斬新なアイデアは話題を集め、シャイ・アガシCEO(最高経営責任者)は08年当時、本紙の取材に「20年には世界からガソリン車がなくなるとあなたの新聞に書いておいて」と強気だった。

しかし、当時はEV需要が今ほど盛り上がらず、自動車メーカーからの協力もほぼ得られずに苦戦。結局、実証から事業へとつなげられず、13年には経営破綻した。

ただ、その後は電池技術の進化や各国の規制強化でEV市場が形成され始める。こうした中、交換式電池で事業化にこぎ着けたのが台湾の電動二輪大手のGogoro(ゴゴロ)だ。電池パックをサブスクで提供し、急速に存在感を高める。近年は中国やフィリピンでも現地企業と提携し、事業機会の拡大をうかがう。

四輪では、中国の新興メーカー、上海蔚来汽車(NIO)が交換式電池事業に名乗りを上げ、今でも同国で先頭を走る。国際エネルギー機関(IEA)によると、22年末の中国の電池交換ST数は約2千カ所と21年末から2倍に増えた。NIOは欧州でも事業展開を始めている。

遅ればせながら、日本でも交換式電池を用いる車両が今年に入って発売された。ホンダが8月、交換式電池を搭載した電動二輪車「EM1e:(イーエムワンイー)」を発売した。5月の発表時から3カ月で約750台を受注したという。カワサキモータース(伊藤浩社長)も「ニンジャe―1」「Ze―1」を投入予定で、スズキも25年までには販売を始める。

高い稼働率が求められる商用車でも、いすゞが伊藤忠などとコンビニの配送での実証を実施。三菱ふそうも今冬には米国のスタートアップであるアンプルと日本で実証を行う。アンプルのシステムは既存の車両を大幅に改造することなく、最短5分で電池交換が可能になるという。

最大の課題は交換式電池の規格だ。統一できれば利便性が高まり、対応車の普及に弾みがついたり、電池交換STの採算が確保しやすくなる。ただ、先行する二輪車では中国やインドですでにいくつもの規格が乱立し、協調の気配もない。ホンダは今夏、インドネシアに電池交換式の二輪車を投入したが、「規格の統一は正直、現実的ではない」とし、電池固定式の電動二輪も検討している。

国内の二輪用交換電池規格はもともと、ホンダ主導で日本では標準化にこぎ着けた。しかし、KTMやピアッジオと欧州で立ち上げた会議体での協議は「欧州メーカーにもそれぞれ取引のある電池メーカーがある。電池メーカー1社に発注する方が合理的だが、利害はなかなか一致しない」(ホンダ関係者)と議論が難航中だ。カワサキの電動二輪車用電池も、国内で標準化した規格ではないという。

電池の進化は日進月歩だ。例え標準化に成功したとしても、車両との互換性を保ったまま電池を進化させられるか。将来、充電待ち時間が大幅に縮まれば、交換式の魅力そのものが薄れてしまう。ただ、コストはもちろん、資源リスクも浮上しつつある車載電池を複数のユーザーでうまく使いまわす交換式は、電池の理想的な活用方法でもある。EV活用法の一つとして一定の用途で定着するか、それとも電動化時代の徒花(あだばな)で終わるか、今後が注目される。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞9月28日掲載