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2023年9月12日

ピックアップトラックにも脱炭素の波 じわりと進む電動化

北米や東南アジアで人気のピックアップトラックにも電動化の波がじわりと及び始めた。車体構造や使われ方が他の車型と異なり、「ガソリン車が最後まで残るのはピックアップトラックだ」(日産自動車の幹部)とも言われるが、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)に背を向けるわけにはいかない。トヨタ自動車やいすゞ自動車など、ピックアップトラックを手がける日本メーカーも開発や生産の検討に着手した。

ピックアップトラックは、車室の後ろに開放型の荷台を持つ車型だ。日本では馴染みが薄いが、北米や東南アジア、中東などでは乗用、商用問わず売れている。特に米国での人気は高く、2022年販売(約1390万台)の2割弱を占め、日本メーカーも同市場に参入して久しい。

しかし、もともと車体が大柄なうえ、多くのピックアップトラックが「ラダーフレーム」と呼ばれる梯子状の車体構造を持つ。モノコック構造と異なり、大量の車載電池を床下に敷き詰めることが難しい。また、小型船舶やジェットスキー、キャンピングトレーラーを連結して走ることも一般的で、重量で示される「けん引能力」も新車選びの重要な要素だが、けん引は負荷が高いため、電気自動車(EV)の航続距離に響く。東南アジアでは多彩な架装に対応することも欠かせない。

このため、各社は「ピックアップトラックの電動化はまだ早い」(片山正則社長、19年当時)と静観していたが、米国をはじめ東南アジアでも各国政府が電動化を推進し始め、潮目が変わった。いすゞは「D―MAX」のEVを開発し、まずは環境規制の厳しいノルウェーに投入する。25年以降には、主力市場であるタイへ投入する検討にも入った。

D―MAXは、同国のモデル別ランキングで首位に立つ人気車で、近年は乗用の販売も伸びている。南真介社長は「LCV(小型商用車)の電動化には時間がかかる」としつつも「『電動車を出してほしい』という声は聞いており、何かしらの形で出していきたい」と話す。

東南アジア市場では、三菱自動車もピックアップトラック「トライトン」で高いシェアを持つ。今年3月に公表した中期経営計画で、今後5年以内にピックアップトラックのEVを投入する方針を掲げた。ベース車はトライトンが有力とみられる。

タイでシェア首位のトヨタもピックアップトラックのEVを昨年末に現地で披露した。「ハイラックス・レボ」がベースで、リアサスペンションのド・ディオンアクスルにモーターを取り付ける新たな駆動システムを採用する。アジアの車両開発会社、トヨタ・ダイハツ・エンジニアリング・アンド・マニュファクチャリング(TDEM)の小西良樹社長は「すでに生産準備の検討段階にある」と話す。ただ、東南アジアでのEV需要は当面、限定的とみており、まずは少量生産で始める計画だ。

他の日本車メーカーでも、日産が「タイタン」「フロンティア」、ホンダも「リッジライン」などをそれぞれ米国などで販売している。米国ではバイデン政権の後押しもあり、ピックアップトラックのEV化が進むが、市場に受け入れられるかはまだ未知数だ。

富士経済(菊地弘幸社長、東京都中央区)は、22年に世界でわずか10万台だったピックアップトラックの電動車が35年には179万台になると予測する。それでもSUV(35年に約5800万台)、コンパクトカー(同860万台)と比べると圧倒的に少ない。各社がどのようなシナリオを練るか注目だ。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞9月2日掲載